小説

□逃した小鳥は帰らない
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※ノアレリナ風



その舞台で、黒き共犯者たち二人は華麗なる歌劇を続ける


たった、二人で




「ああ、最高です、実に愉快です。そう思いませんかL.L.、僕の魔女」


「そうね、こんな舞台は滅多にないに違いないわ。アレン、私の魔王」




ホールの中央で、男と女は、何機かのナイトメアフレームに囲まれていた


理由は男の服装


黒く長いマントの内に、所々金色のアクセントが入っている青のスーツ、首元には白いスカーフを巻いており、貴族の礼服を着こなしている


英国、世界中の誰もが見知ったその姿


いつもと違うのは、通常仮面に覆われたその容貌が暴かれていること


銀の蝶の髪飾りでひとつにまとめてある、艶やかな長い白髪は、時たま風に遊び、至高の銀灰色の瞳(め)は辺りを鋭く射抜く


砕けた仮面は、彼の美貌に屈したかのように、足元に散らばっていた


青年と呼ぶには、まだ少し若い彼に寄り添う少女は、彼より更に幼いような見た目


だが、妖艶さ漂わせ、取り巻く人離れした雰囲気が、見た目をいとも簡単に裏切る


同じ黒を纏(まと)い、腰まで伸びている艶やかな黒髪が風に揺れ、それに反して紫の眼(まなこ)が光を象徴するようだった


L.L.と呼ばれる少女は、白のショートパンツから、真珠のような白さを持つ生足を、惜し気もなく晒(さら)し出す


「素晴らしい、本当に素晴らしい舞台と脚本だ。まったく素晴らしすぎて涙が出そうだ」


“素晴らしい”と、ただただ狂ったように繰り返し高笑いするアレン


そしてそれに賛同しながらくすくすと笑みを零す少女


彼女らはまさに、異質であった


「ああ、素晴らしい」


心の底から感動したというように、恍惚とした表情を浮かべて


「ねえ、君もそう思うでしょう。ラビ、僕の“トモダチ”」


王の威風(いふう)を立ち薫らせて問いかける


眼前の無機質な歴史の傍観者(ブックマン)が、震えたように見えた


「あるとき、ひとりの男がいました。彼にはたいせつに想っていた友人がいて、友人も彼のことをたいせつに想っていました」


突如としてゼロの傍の少女が語り出す


血で染められた繊維を紡(つむ)ぎ出す


「…っやめろ…っ!」


聞こえないはず、なのに


確かにバルフォーレのデヴァイザーの呻(うめ)きが聞こえる


「そして、数日後

彼とその友人は戦場で、しかも敵同士としてであいました

友人はなげきかなしみながら、たたかいました。彼は、ただにくしみをぶつけながら、たたかいました

そして彼は、とうとう友人を、その手でうちころしてしまいました!」


高らかに少女は物語を謳(うた)いあげる


制止など聞かず


まるで神のように、絶対的な威厳でもって


血で染められた真紅の繊維を紡(つむ)ぎ出す


「月日はたち、彼は敵のトップであった友人をころしたことで出世していきました

彼は友人であった敵がいきているという噂をききました

そして、

彼は、また戦場で、その手でうちころしたはずの友人と、さいかいしたのです!」


「やめろおおおぉぉっっ!!」


「クク…ハハハハハッッ!!」




叫びと、笑い

正反対だけど、

同じ性質




「素晴らしい脚本だと思いませんか、ラビ?」


「黙れ……」


「ちなみに、このストーリーにはひとつだけ、抜けているエピソードがあるんです」




「実は彼の友人は、すでに魔女と契約をかわし、魂を売っていました。そう、彼の友人は魔王だったのです!」


「…っアレンーッ!」


魔女が最後の言の葉を吐息にのせた刹那に


二人へと弾丸が降り注いだ




「――ねえラビ、この物語はどうなるんでしょうね?」


銃撃音を静かに切り裂く、声


くっくっくっと、抑えたような笑い方は、昔とまったく一緒なのに


「きっと、―――」


魔王と魔女の笑い声が消えて、あとには沈黙と目的を無くしたナイトメア




きっとこのモノガタリは僕か君、どちらかが死んで、エンディング


僕が死んだらハッピーエンド


君が死んだらバットエンド


嗚呼、なんて素敵な“喜悲劇”!












お題拝借、闇に溶けた黒猫様


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