日和

□あの日を夢見て
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誰かが聞いた


―貴方は何故、あんな変人に従うのか、と








男の名は聖徳太子。国をまとめる人物の一人である。

しかし、それだけ聞くと良いように聞こえるが、実際の彼はちゃらんぽらんで仕事も殆どしない、どうしようもない変人だ。

カレー臭いと散々に言われるし、部下にも迷惑を掛け捲り、あまり良い印象を持っている人はいないであろう。


しかし、彼に忠誠を贈る人物もいる。

そして何故かそれが高い位のものばかりで、「聖徳太子みたいな奴に使えるものこそ変人だ」と腹いせに言うものも少なくはない。

その中には小野妹子も含まれ、たまに白い目で見られたのもするのだ。

だが、だからといって「尊敬」というわけではなく、容赦なく蹴りを入れたり、駄目男といったり、扱いはそれほど変わらない。

だから、なおさら分らない。

何故、あんなものに付くのかと。

忠誠を贈るのかと。



だから、どうしても気になったものが一人、高官に聞いたことがあるのだ。

何故、聖徳太子につかえるのか。

その高官は、笑いながら、でも真剣さを帯びた表情で答えた。



自分があの人に忠誠を送るのは、彼の本当の姿を見たからだ、と。




ある時、本当に国の平和に関わる祭りごとをした時、太子は初めて正式に朝廷に出席した。

誰も期待はしなかった。どうせ、あの太子だからと。

でも…それは違っていた。

正装をしていたから、などという言葉では説明がつかない。

雰囲気が、まるで違っていた。


自然と、頭を下げている自分がいた。

恐れを抱きながらも、どこか喜んでいる自分が、いた。


一言一言の言葉がずしりとのしかかり、一つ一つの動作が、見る者を魅了させた。

誰もがその深い瞳に吸い込まれそうになり、今まで感じたことのない、いやに張った空気が今でも鮮明に思い出せる。

いつもの彼からは想像できない、凛々しく威厳に満ちた姿。

太子のおかげもあって、国は平和を失わずに済んだ。



それから太子を観察するようになり…、気づいた。

彼が自然と何をやっているか。

全て、結果として平和に繋がっていたことに、気づいたのだ。

彼は、だれよりも先を見ているのだと、感動と、自分の無力さに涙を流した。


なんてお方だ…!




そのときから、自分は彼につかえていると、若者に穏やかな表情で話した。

しかしそれを見たのも一度きりで、その他はそんな大ごとになる前に、全て平和的に解決しているため、いつもの太子しか見ることがない。

その祭りごとに出席していたものが、高官が多かったら、位の高いものが太子に忠誠を誓う、という形に見えるのだという。


ちなみに例外は一人いて、その祭りごとを見ていないのにも拘らず、太子につかえるものがいる。

小野妹子だ。

太子が私利私欲のために動くのではなく、全て国を、平和を優先的に考えていることに気付いたからだ。

一番、理想的な形なのだろう。

いつもの自然な太子から、それを見抜いたのだから。






太子を変人と呼ぶ人は、山のようにいる。

それはいい。事実なのだから、仕方がない。

だが、太子を「能無し」という者たちを、本当の太子を知る者は、表面上では繕っても、内心酷く軽蔑するのだ。

そんなことをいう奴が、本当の「能無し」だと。







彼らは夢を見る。

もう一度、あの太子を見ることはできないのだろうかと。

あの日のことを思い浮かべて。

そして心に誓うのだ。

一生、太子についていこうと…。






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