日和

□変わらないもの
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『今、北側に見えますのが、――座です』


そんな声が響く中、二人は手をつなぎながら座っている。

今はプラネタリウムにいるのだが、周りに客はいない。

人の作り出す雑音が少ない、とても静かな時間。

それは少しだけ昔を思い出させて、なんだか心地が良かった。




「ね、妹子、あれ何かな」

「ん?あれはオリオン座。蠍座を嫌ってて、同じ空でオリオン座と蠍座を見ることはできないんだ」

「へー」


小声で話しながら、名無しさんの質問に次々と答えていく妹子。

そしてそれを満足そうに聞く名無しさん。



「すごーい! 妹子本当に、色んなこと知ってるんだね!!」

「え?……あ、うん。まぁ人並みには」


(昨日色々と勉強してきたとは…言えないな…)



そんなことを考えているなど全く気づいていない名無しさんは、様々なことが妹子から聞けて鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌になっている。

ナレーターの声も、彼女にはきっと届いてないだろう。

妹子は妹子で名無しさんの笑顔が見れてご機嫌である。



それから少しの間、光り輝く星を眺めていると

「うーん…」

そう、名無しさんが妹子でも微かに聞こえる程度の小さい声を出した。


「どうかした?」


妹子が声をかけると、名無しさんは少し目を丸くしながらも直ぐに笑顔作りながら言った。


「うーんとね…、不思議だなぁって思って。」


不思議……?

妹子は心の中で首を傾げながら次の言葉を待った。



「この空、妹子が遣隋使だったころは…普通に見れた星空でしょう?

でも今はプラネタリウムか、すっごい山奥とかでしか見れない。

…時の流れって、凄いなぁって思って」

「名無しさん…」


どこか遠くを見るように宙を眺める名無しさん。

その顔には少し寂しそうな笑顔が浮かんでいる。

寂しいような、切ないような、悲しいような、様々な感情が入り混じった表情。

しかしそれも少しの事で、すぐにいつもの明るい笑顔に戻った。


「…えへへ。変なこと言ってごめんね、い――」

「例え」


妹子は静かに名無しさんの瞳を見つめた。

――昔から、ずっと変わっていない真っ直ぐな瞳。



「例え、何年たっても、何十年、何百年、…何千年たったとしても、僕は名無しさんを愛してる。

これは…絶対変わらない。

名無しさんも…同じ気持ちだと…、嬉しいな。」



言いきってから、恥ずかしそうにはにかむ妹子。

ふいをつかれて、幾分かの間固まってしまった。

だが、それも本当に一瞬。

すぐに今までとは違う、羽のように軽く柔らかい笑みを浮かべた。




「当たり前だよ。私も同じ気持ち。

妹子…ありがと。私も大好きだよ」








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