Tales of

□sweet day
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「いやー今日は大変だったねぇ」


楽しげに笑いながら、窓枠の外を眺めた。

部屋の窓から優しい月明かりが入る。

強くも弱くもない、綺麗な光。

美しい景色を見ながら、反対にぐったりしながらベットに座りこむ彼の声に耳を傾けた。



「全くだ…」

「相変わらずナタリアのチョコは強烈だったし」


あまり思い出したくない強烈な物体が頭によぎる。

今日は女の子の一大イベントであるバレンタイン。

女の子にとっては本当に大切な一日。

それに伴ってみんなでチョコを作ったのだが…結果は予想通りという感じで。



「それでも、名無しさんのお陰で去年よりは上手にできてたよ」

「…あれで?」

「去年のチョコは食べたら二日は腹痛で動けなかったからな…」



半笑いを浮かべつつ、死んだ魚のような目でどこか遠くを見つめるガイ。

よっぽど凄い有様だったのだろう。それは彼の表情を見るだけで一目瞭然である。

なんとなく想像が付く情景を頭に浮かべつつ、きっと断れずちゃんと残さず食べたのであろう彼に同情の視線をよこした。

正直彼のそういうところは本当に尊敬する。

あの凄まじい料理を、いや料理と呼んでもいいのか分からない物体を根性と気合で食べきったところを目の当たりにしたのだ。

彼はああ言うけど、今日の「チョコ」も相当酷かった。

嫌がる皆をよそに、笑顔でそれを食べきったときの彼なんか輝いて見えた。

若干顔が青かった所や、冷や汗を掻いてる事なんて全く気にならない。

もしかしたら、今までで一番格好よく見えたかもしれない。

それもそれであれだが。



「ほんと同情するよ…」

「いや、今年はそれほどでもないさ。寧ろ良い一日だったよ」



妙に明るい声に驚いて、振り向いて彼の顔を見つめた。

モテモテな彼が毎年メイド達から貰っているような綺麗で美味しいチョコではなく

食べるのも一苦労な酷いチョコや、明らかにお返し目当てのチョコしか貰ってないのに?




振り向いて場所を移動したことで、陰から漏れた月の光が彼に降り注ぐ。

光は彼の金色の髪を青白く照らし、いつもとは違う雰囲気を醸し出していた。

そして優しく笑いながら、聞いている方が恥ずかしくなるような言葉をサラリと言ってのけた。



「今年は、名無しさんからチョコを貰えたからね」


透き通るような瞳に見つめられながら言われたその一言は、私には効果覿面であった。

今に始まったことじゃないが…これで無自覚なのだから達が悪い。



「ん?…大丈夫か?顔が赤いぞ?」

「誰のせいだと思ってんのよ…」

「…俺のせい、かな?」



苦笑しながらも嬉しそうに笑う彼に少しむっとしながらも、それもすぐに笑みに変わってしまう。

ふとちょっとした悪戯心もあって、わざと彼に触れるぐらい近くに座ってみた。

そして嫉妬するぐらい綺麗で格好いい顔を覗き込んでやった。



「お返し、楽しみにしてるわよ?」


いつものようにその顔が引き攣るかと思って、内心勝ち誇っていたのだが、それどころか逆に彼は笑みを深くした。

さっきよりもかなり距離が近くなった、というか目の前に彼の顔があるので、悔しいが自分の顔が少しだけ赤くなるのを感じた。

彼の体質から考えて、多分無いだろうが…キスも出来てしまいそう。

というか彼の顔が引きつらすどころか、若干嬉しそうなのは何故だ。



「勿論。頑張りますよ、お姫様」

「……この天然タラシめ」



完全に負けてしまった私は、顔を真っ赤にしてそう言うのが精一杯だった。







sweet day













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