日和
□灯台元暗し
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「え…?」
ぽつりと彼が零した言葉。
それはいつもの彼からは想像できない、そんなものだった。
「心の、そこ…から?」
それには一体どんな意味が込められているのだろう。
自然と口から出た問いに、酷く悲しそうな笑みを浮かべながら、彼はこくりと頷いた。
ふと、普段の彼を知っているものが今の彼を見たら、どうな反応をするだろうか…そう考え…思った。
いつもの彼は『本当』の彼なのか?
私が見ていた彼は、本当の姿なのか。
少なくとも、先ほどの言葉から察するに、普段彼が浮かべていた笑みは、心の底からの笑みではないことになる。
私は知っているつもりだ。
彼が本当は頑張り屋で、優しくて、誰よりも寂しがりやなこと。
全て、自分ひとりで背負いこもうとすること。
辛い時も、笑顔ではぐらかす、彼なりの優しさも。
「…大王」
何か、痛みを堪えるように、微笑む彼。
気づいた時には彼を呼んでいた。
「何か…辛いことでも、あったんですか?」
「…どうなんだろうね。…俺自身もよくわからないかな。」
――ほら、そうやってはぐらかす
小さな溜息をついて、私はまた笑みを浮かべた彼の頬を…私は思い切り叩いた。
全くの予想外であった行動に避けることもできず、その平手は吸い付くかのように彼の頬に全力で入った。
瞬間、誰かに見られたら死にたくなるぐらい情けない顔になる。
それを普段の私が見たら腹を抱えて笑い転げるだろうが、今はそんなこと気にならなかった。
「何そんなメソメソしてんですか!!
一人で全部背負いこむから、そうやって落ち込むことになるんですよ!!
何かあったんな話してください!
心配しなくても、今更嫌いになんてなりたくてもなれませんからね!
どんどん話したらいいんですよ!」
「…え」
「アンタは一人じゃないんですから!!」
ふん、と踏ん反り返ってみた。
すると彼は目をぱちくりさせながら…大声で笑った。
「…え!? ちょ、打ち所が悪くて更に変になりましたか!?」
「な、何気に酷いこと言うね、君!!
…はは。うん、今までこんなこと言ってくれる人いなかったから、嬉しくて」
「う、嬉しい?」
「うん…。凄く…凄く!!」
その時見た彼の笑顔は、今まで私が見た中で、一番輝いていた。
灯台下暗し
幸せは、こんなに近くにあったんだね…名無しさん
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