Tales of

□ぬくもり
1ページ/2ページ

(もう、アスベルの馬鹿!)


一人で歩く帰宅途中、頭に膨れ上がるのは、そんなアスベルに対する不満ばかりだった。

少し肌寒いとか、周りの人とかは全く気にならなかった。

ズンズンと豪快に道を歩き、見るからに不機嫌ですと言わんばかりである。


頭についさっきあったことが何度も何度も流れていく。


愛しの彼の予想もしなかった一言。

大体帰りを待ってる彼女に対して「あれ、なんでいるんだ?」はないだろう。

お前を待ってるんだよお前を!!

ああ、駄目だ。余計にイライラしてくる。

女の子らしさとか、おしとやかとかそんなもの気にしてなんかいられるか。

周りに人がいろうが、車が通ってろうが私の知った事じゃない。

取りあえず家に帰って寝よう。ご飯食べて好きなことしよう。



そんなことをつらつら考えつつ、歩道を歩いていく。

そして、それは丁度大通りの横断歩道に差し掛かった時だった。








(……え?)


本当に突然の事だった。

急に迫る車の陰。

ざわざわと騒ぐ人の悲鳴。

何があったのか分らなかったが、追い詰まれれば追い詰まれるほど人の頭は活性化するらしい。

記憶を手繰り寄せて、今車が自らに突っ込んでいるのだと理解した。



逃げなきゃ…!!



必死に足を動かそうとする。

だが自分の意志とは裏腹に、体はすくんでしまっているのか思うように動いてくれなかった。

前を見ると目の前まで迫った車が一台。

もう駄目だとと思いきつく目を閉じる。

隅に、もう一つ影が出来たような気がした。







耳障りなブレーキ音。

だが来ると思っていた衝撃はいつまでたっても来ることはなかった。

もしかしてもう死んでしまったのだろうか。

痛いと感じる暇もなく逝ってしまったのか。

そんなことをつらつらと考えながらゆっくりと目を開けると、そこには見慣れた服の柄があった。

そういえば気づかなかったが、とても温かい。



「大丈夫か!?」

「え…?」



聞きなれた声。

(アス、ベル…?)

なんで…と声を漏らすと彼は私に向かって泣きそうな声で叫んだ。


「なんでじゃないだろう!!怪我は、怪我はないか?」

「あ…うん。ちょっと擦りむいただけ」

「…そうか…よかった」


そう言って私を抱きしめてくれた。

優しい手だった。優しい体温だった。


そうして何が起きたのか把握した。

――アスベルが、私を守ってくれたんだ…。


もうさっきの怒りなんてどこかへ吹き飛んでいた。

私はアスベルの優しさとぬくもりを感じて、少しだけ、少しだけ泣いてしまった。





ぬくもり










.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ