小説(ブック)

□お作りしましょっ
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「「あ」」
綺麗に揃った声の主達の視線は白い手が持つ黒い上質な布に注がれた。

より正確にいうならば、右前身頃の真ん中に開いた、大穴。

それを見て鬼男は深々とため息を吐いた。

「大王、これで何度目ですか?」

心底呆れ返った声音から幾度となく閻魔が裁断に失敗したこと、それに対して鬼男が怒る気力もないことが手に取るようにわかる。

当の閻魔といえば、普段から血色の悪い顔から更に血の気を引かせている。

「おに、おくん、これ……」
「無理です。さすがに此処まで大きく切られていては、裏からバイアステープを貼った程度では誤魔化せません。」

鬼男は無慈悲にも告げる。やり直しだと。

「や、やり直しって、どこから?」

ひくりと方頬を引きつらせる閻魔は、何とはなしに予想できている言葉だけはないようにとどこぞに居るかも解らぬ神に縋った。

「身頃の裁断からですね。」
「ああああああ………」

撃沈する閻魔。その手には襟と右袖がついた黒い服が握られている。
ちなみに、服を持つ手と反対の手には布きり鋏が握られている。この鋏で誤って身頃を切ってしまったらしい。

「仕方ないでしょうが。さっさと諦めて襟とお袖を外してください。僕はその間に身頃を切り出して印し付けとしつけしときますから。」

言いながら鬼男はあまりの布に型紙を置きチャコペーパーをセットする、ルレットの準備も万端である。
その一方で閻魔は涙目になりながらリッパーを慎重に布をあわせる縫い目に滑らせる。

プチプチと糸が切れる音とガリガリとルレットの音が響く。

「あーんもう、終わらないいぃぃ…」

ぐんにゃりとダレながらも手は器用に動かす閻魔に鬼男から叱責が飛ぶ。

「この馬鹿大王イカ!手元見ないとまた風穴あけることになんぞ!」

鬼男の言い分も最もである。

「そんなこといってもさ、鬼男君、これってまた襟を背中心からあわせるのと袖山を肩山とあわせるのとで待ち針のむしろにするんでしょ?あれミシンで縫いにくいことこの上ないんだけどーしかもまだ左袖出来てないし。」

一息に言い切る閻魔の言にびきり、と青筋がたつ。

「てめえいい加減にしろよ!そもそもあんたが自分でセーラー作りたいって駄々捏ねやがるから譲歩して手伝ってやってるんだぞ僕は!!なのになんでおまえが愚痴言ってんだ!しまいにゃその口縫い付けんぞ!」

一息に言い切った鬼男に閻魔が反論する余地も無かったのは、言うまでもないことである。


END
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