不運審神者シリーズ

□奈落の底
1ページ/3ページ













どす黒い霧が漂う日本家屋の目の前に一つの塊。
その横にはピンクのレースの着いた籠。
真っ黒な高官政府に拉致られて投げ込まれたホワイト政府産のこんのすけの目に入った最初のもの。
その塊は本来此処に居るべきではない幼い子供。
手入れもされていないボサボサな不揃いに切られた短い髪、患者が着る様な白い入院着、殴られたのか真っ赤に腫れ上がった右頬、幼い子供に不釣り合いな無機質な黒い首輪。
それだけでこんのすけは理解してしまった。

「・・・・ああ・・・なんて事を・・・。」

此処に居る子供は自身の意思で此処に居るのではないのだと。

「・・・だれですか?」

思わずこぼれ落ちた言葉を聞き取ったのか、俯いて地面を見つめていた子供の目がこんのすけを捉えた。
その目は幼子の目ではなく、全てを諦めた人間の目。
感情も何も無い目。

「・・・・初めまして。小さな審神者様。私はこんのすけと申します。」
「・・・・・こんのすけ?」
「はい。」
「・・・・・こんのすけは。」
「はい?」
「このこをいじめない?」

そう言って子供は隣に置いてある籠の中に目線を向ける。
籠の中を確認する為にこんのすけは子供と籠に近づき、そして籠の中を見る。

「・・・・・・え?」

そして、先程以上の衝撃に襲われた。
籠の中に入っていたのは生まれて間もない赤子。

「・・・・な・・・・なんて事を・・・!」
「こんのすけ?」
「ああ!政府の高官は何を考えてこの子達を此処に!?」

これ以上にないくらいこんのすけは動揺と怒りで震える。
幼気な子供二人を最悪な環境に押し込めた原因に今すぐ怒鳴りつけに行きたいくらいだ。
しかしそれも出来ない。
こんのすけが此処に来た時点で政府行きのゲートは意図的に閉じられてしまったからだ。

「にえはにえらしくしごとをすればいい。」
「え?」
「ここにくるまえにそういわれました。」
「・・・・にえ?」

にえ、にえとは生贄だろうか?
状況からして十中八九当たりだろう。

「けがれをじょうかしてここをきれいにそうじすればいいっていわれました。」
「な・・・?」
「・・・・・・それにここにとうさまがいるんです。」
「は?」

子供の言葉にこんのすけが固まる。
こんのすけを拉致した高官の話しが本当なら、此処には自身と子供二人を除けば人間も刀剣も居ない筈。
それにこんのすけ自身も生体反応は目の前の子供達のみしか反応していない。
と言う事は子供の父親はこの本丸で死んでいる事になる。
それイコール、前任の審神者基此処をブラック本丸にした人間と言う事になる。

「とうさまふういんされてるんです。とうさまはじっけんのじゃまをするからって。」
「え?と言う事は此処の前任では無い?」
「ぜんにん?」
「あなた様のお父様は此処に住んでおられたのではないのですか?」

こんのすけの言葉に意味が理解出来なかったこどもは首を傾げる。
そんな子供に分かり易い様に言い直す。

「いえ、とうさまはふういんされるちょくぜんまでぼくとかあさまといっしょにいました。」
「・・・・・どういう事でしょう?なぜここにお父様が本丸に封印されているのでしょう?」

そもそも此処の審神者でもない子供の父親を此処に封印する意味が分からない。
というか何故殺さないで封印?
邪魔者排除なブラック政府なら無慈悲に殺している筈。
それとも殺せない理由がある・・・?

「ぼくやかあさまにみつけられないように、ふういんをとかないようにだとおもいます。」
「でもそれなら何故今更此処にあなた様を連れて来たのでしょう?」
「みつけたところでどうにもできないといわれました。みつけられるのならみつけてみろと。」
「・・・・そうですか。」
「でもぼくはとうさまを、ぜったいにみつけなくてはいけないんです。ぼくひとりではかあさまをたすけられない。」
「お母様も封印されているのですか?」
「・・・・・・・・にんぎょうにされてしまいました。」

今まで表情が全く変わらなかった子供の顔が少し歪む。
それでもよく見ていないとわからないくらいの変化だが。

「くろくてこわいひとたちのいうとおりにしかうごかないんです。ぼくのことみてくれないんです。めがあうのにぼくをみてないんです。」
「・・・・・それは・・・。」
「ぼくのことよんでくれないんです。いいこですねって、ぼくたちをあいしてますっていってくれないんです。わらってくれないんです。こわいひとにばかにされてもおこらないんです。いつもならわるぐちいうひとにおこったりするのに。だきしめてもなでてもくれないんです。」

子供は今にも泣きそうに呟くのにその目には涙一つも流さない。

「泣いても良いんですよ?」
「だめです。ないたらたたかれます。ぼくだけたたかれるのはいいです。でもこのこのこともたたいてはりでさすんです。かあさまにへんなことするんです。」
「変な事とは?」
「はだかのおとこのひとがはだかのかあさまのうえにのっかってるんです。」
「・・・・・な・・・・?」
「なぜかわからないけどすごくきもちわるくて。でもなんできもちわるいのかわからなくてなんかいもおなじことがあってきづいたらかあさまのおなかがおおきくなってました。」

その言葉を聞いた瞬間、こんのすけは言いようのない嫌悪感に襲われた。
もし自分が人だったら確実に吐いていただろう。
そう、子供の気持ち悪いと言った理由を理解したからだ。
こんのすけは管狐で人ではないとはいえ、自身が所属している所で色々な知識を与えられている。
審神者をサポートする為に良い事も悪い事も必要だからと。
そしてその中にその知識はあった。
ブラック本丸に対抗出来る様にとその手の知識は特に叩き込まれている。
だからこそ分かってしまった。
子供の母親が何をされていたのか。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ