架けた流星

□【登校日 @】
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夏休み前まで色白だった生徒が、色黒へと変貌する。
この時期に見られる光景に充実した休みを満喫しているんだなと感心しながら、雪は靴箱に手を掛けた。
「横ごめんねっ!」
隣の靴箱に手かける腕と比較してみても、己の肌の白さには愕然とした差があり、情けなくも感じた。
この年頃、この季節に日焼けさえしてない女子中学生の日々の生活など、誰もが想像できることだろう。お嬢様か、または引きこもりだ。
最近は美白傾向だし、紫外線を浴びない方がうんたらかんたらメディアが言ってた気がする。鵜呑みにするのもいけないけれど、小麦肌が健康なんて今や昔の価値観だ。そう言い訳しておこう。

私は弁解したい!実は日焼けが苦手なのだ。特に用事もない限りこの夏はずっと家に引き籠っていた。
クーラを掛け、冷菓子を食べ、だらけた生活を送っているとは死んでも他人には言えないし、公に晒されることがあるとしたら、この学校生活も終わりだ。
そうなるとするならば、世間体を気にしてこの町で胸を張って歩けなくなる日も来るかもしれない。ない胸だけど。

「雪、おはよー」
「おはよう雪ちゃーん」
『はよう・・ってぇ、真歩どうしたのその肌?!』

前までは色白美白だった透き通る肌が、今はドーランでも塗ったかのような黒に変貌していた!いや、言いすぎた小麦肌に変身していた。それも艶がある黒ではなく所々赤みを帯びていて痛々しく、皮膚が剥がれそうになっている。
『(真歩もか・・・)』
「この前ね、隣町の海に行ってビーチバレー体験したの〜楽しかったな!
日焼け止めも汗で落ちちゃったみたいで…お風呂に入るのも一苦労だったよ〜」
「せっかくの綺麗な美白だったのにな」
『そーだよ。でも黒い真歩も新鮮で良いかも』
「ほんとー?えへへ〜」

そういうアンナも、うっすらと肌が焼けていた。結局友人二人はいつの間にか知らない二人になっていて、いつもこの時期だけは私だけ取り残された気分になる。

「――で、そういうお前は相変わらず肌白いな。どうぜ家でだらだらしてたんだろ?」

アンナの問題発言で、私の自尊心は傷ついた。確かにだらだらしたよ!お菓子一杯食べてたけど、けど!
―――なにも反論できなかった。

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籠目中学校、一階中央棟『1ーA教室』

教室では、生徒達の旅行自慢や、自由研究の進み具合を話し合う声が大きく、浮かれて宿題を忘れた者や、ずっと夏風邪で寝込んだ者もいるらしい。
インドア派は好きな本の文章を一文一句覚えてるだの、好きな漫画の主人公の口癖を数えてるだの、悪くいえばしょーもない研究に熱中してるようだと内心安心してしまっている自分がいる。
自慢なのか、自虐なのか。私は皆の会話に聞き耳をたてながら、こっそり判定していた。大多数は「自虐自慢」これはどっちのカテゴリに分けるかめっぽう悩んだ。
まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。

「―――――そういや、雪はまた波留と天体観測するみたいだな」
「へ〜そうなんだ」
いつの間にか隣に居た二人、私のおつむでは同時処理できないので大人しく会話に入った。
『あ〜、勝手に決められたんだよ。
振り回されてばっかりで、大変なんだよ!もー』
「いいじゃない、波留って学年一優秀なやつだっけ?」
『ああ見えてね』
「ついでに勉強も教えてもらいな?夏明けのテストで挽回しなきゃやばいぞ。赤点が担任の教科だもん。」
『やだよ〜あの人にだけは教えてもらいたくない!私にだってプライドぐらいあるんだから。』
と、ありもしない胸を張り威張ってみる。
「なにがプライドよ。威張れる身分?」
『でもでも、一回苛められてみなよ。確実に私の気持ちが分かるよ!ね、真歩もそう思うでしょ?』
と、真歩に相槌を促した。
「あ、えっと…。波留くんはそんな人じゃないと思うよ。お友達にも優しく接してたし、友達思いみたいだから。きっと雪ちゃんとの関わり方が分かんないんじゃないかな?女の子だし」
『そんな繊細な奴じゃないよ。私の事奴隷みたいに扱い――』
キーン__コーン___カーン…

なぜ波留陽を擁護するのか。ただ皆よりほんの少し知能が良いだけの人だ。ただの星オタクなのに。綺麗なところだけしか見てないんだ。
私の腹が黒いのか、皆が真実を突き詰めないのか、私が偏屈なのか。
どっちが悪いのか、どっちが悪くないのか。
決めたところでどうにかなる訳でもなく。
チャイムに遮られた私の弁明みたいなものは、簡単に消されてしまうんだね。言葉って儚いね。

『(チャイムぐらい私の味方でいてよ!)』
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