架けた流星

□【1対1】
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藍澤結。28歳。

彼女は、雪の学校の近隣にある心療内科内で、カウンセラーとして勤務している。
この町では有名で毒舌ではあるが患者をケアし、何十人にも及び社会復帰させたプロフェッショナルで、老若男女分け隔てなく人気が高い。

しかし、人気が高いのは治療だけではない。
女らしい体つきで美人でおまけにセクシーさを備えている、白衣の下にミニスカートや、胸の谷間が見えるようなインナーを堂々と着て、患者を影で悩ましているのだ。


彼女もまた、雪を闇から救いだした一人で、雪とは多大な信頼関係を築いている。
周りからは本当の姉妹みたいだ、と思われているようだ。

そして、彼女には特定の人物にしか話していない秘密があった。

それは、隠れ既婚者だということ。





「ふうーっ、今日は早かったわね、さて」

いつもの様に、カウンセラーとしての役割を全うし、午後の休憩に入ろうとしたその時、ドタバタと靴の音が廊下から聞こえてきた。
彼女は一瞬だるそうな表情をしながら、椅子の背もたれに体を預け、ストレッチをしはじめる。

ガラララ...

『結ちゃんっっ!!居る?!』
勢いよくドアが開き、見慣れた人物が馴れ馴れしく話しかけてきた。
そんな人物は一人しかいない。先程のバタバタした足音、敬う気配すらない大物。人物を特定できるほどの分かりやすさはダントツだろう。

「診察時間は終了。帰れっ!」

藍澤は椅子をくるりと返し、雪に背を向けながらカルテにペンを走らせ、左手で追い返す動作をした。

この子に関わるとろくなことがない。
煩いし、騒ぐし、他の患者から苦情が来るほどのモンスターだ。

『聞いてよ!一応患者だよ!
ちょっと相談したいことがあってね』

それでもめげずに、藍澤のデスクにすり寄ってきて許可もなしに肩を揉んだりなど、機嫌を取りながら話しかけてきた。

分かりやすいゴマスリに苛立ちがつのり、藍澤は両手で跳ね除けた。
「あーーーっ!!!やだっ、都合の悪い時だけ患者ぶるの止め!今日は早めに終わったのに折角の昼休みが台無しだわ・・」

『まあまあ、お土産も用意したし』

そう言うと、雪は肩に掛けていた鞄から何かを出し、デスクにボンッと無造作に置いた。
正方形のものが風呂敷で包まれていて、それが何であるか大体の予想がついた。

雪は鼻歌を歌いながらシュルリと包みを外し、中を見せた。

「・・おいしそ」はっ

反射的に感想を漏らしてしまい、すぐに口を手であてがうが、時すでに遅し。雪がにやけながら藍澤の顔を見ているのだった。

室内が一瞬でお弁当の香りで充満し、藍澤は自分の空腹に呪いをかけた。


「あんた・・飯で釣るのはやめなさい・・・」

『これしか、アピールポイントが無くてね』
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