架けた流星

□【真正面から】
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「はぁー、疲れたあ」

午前11時。
アンナは時刻を確認しながら、枕に顔を埋め、深いため息をついた。


雪の神隠し事件から数日。やっと落ち着きを取り戻し、辺りはいつもの静けさに包まれている。
事件発覚後、警察が動き出すほどの騒動に陥り、雪の安否確認に教師全総員で捜索した。

私は、体中の筋肉が消えてしまったかのように地面に膝をつき、そのまま動けなくなってしまった。
真歩や担任の先生からの励ましも耳に届かず、放心状態になっていた。
そのあと、先生に連れられ、自宅へと戻ることとなり、あまり覚えてない。

その数時間後真歩が私の家へ来て雪が見つかったことを知り、玄関で叫びながら大粒の涙を流した。

その事は雪は知らない。
こんな弱い私は、もう二度と見せたくないから。

雪がなぜあんな行動を起こしたのかは、本人も不明瞭だったし、結局謎のままになっている。
その後の雰囲気も変化していたし、何かあったんだと思ったが、問い詰めるのはまた後にすることにしている。



「――雪ちゃんに一番躍起になったのはアンナちゃんでしょ?」

この前の真歩の発言が頭でループして消えてくれない。

ふわふわしてると思ったら、突発的に核心つく発言するのは、変わらないな・・・。




アンナは、小さい頃の記憶を呼び起こした。



ーーーーーーーーー

あれは私が小学五年生になった春のこと。
校庭にある桜が満開になって、クラス皆で記念撮影して、皆の笑顔が最高潮になった時の頃だ。

教室に戻り、いつもと違う先生の雰囲気でクラスのみんなが嬉々としていた。

けれど嬉しい報告ではないと生徒達はすぐに悟った―――


「今日はね・・転校生が来ますよ。」

転校生??

転校生が来るならばもっと嬉しい顔をするはずなのに、先生は顔に雲が懸かったように一瞬も笑顔を見せてくれなかった。

どういう事なのだろう?


「アンナちゃんっアンナちゃんっ、転校生どんな子だろ〜ねぇ」

隣の席の真歩がニコニコしながら手を口に当て、私に小声で話しかけてきた。

天然なのか何なのか分からない、そもそも友達になった記憶すらないけど、前に居た友人がいなくなってから喋りかけてくれる様になったことだし、少しめんどくさく感じるも返事をした。

「さあ?女子って言ってるね。」
「お友達になるよ〜わたし!」
「そう」

案の定クラスのみんなは、ざわざわとしその話題で持ち切りだった。
私も、新しい仲間がふえることに心がふわふわとしていた。
しかし、喜んでいたのは束の間。

それから後の先生の発言により、ざわつきがぴたりと止み、教室が一瞬で静みかえることとなる――



ーーーーーー

授業のチャイムが鳴り、がたがたと自分の席に着いていく。
そこから、女の子が教室へと入ってきた。
『はじめまして、神山雪です。よろしくお願いします』




雪に出会うのは、 この時で2度目になる。初めて出会った時は入学式当日の頃まで遡るが、これまた奇想天外な出来事に巻き込まれ、てんわやんわしたのを思い出す。


始めまして、と続けられた自己紹介に目の前が現実ではないような気がして、一瞬目の前の景色が静止する。
これは夢だと何度も念じながら、目をぎゅっとして再び焦点を当てると、初めて会った時のような、よそよそしい雪が目の奥に写った。



雪が教室に入ってくる前に、先生から説明がされたのを思い出した――


ーーーーーー

「みんな、神山雪さんは知ってるわよね。」

その時の先生の話は、嘘だと、冗談だと最初は思った。思いたかった。
だけど、先生の辛い表情で真実であると感じとってしまい、私は逃げられなくなった。


雪の父親が海外出張となり、その関係で2年前に突然居なくなってしまった。
そこで殺人事件が発生し、両親が死亡し、10才で天涯孤独の身になったという。
身寄りも居なく、ビザも切れてしまい、強制送還となってしまったらしい。

その事件の影響で幼くして心的外傷後ストレス障害なる病気を患い、後の治療の結果ようやく退院することができたのだ。
しかし、不幸は続き、その影響で過去の記憶が途切れてしまい治療でも治らなかった。

両親以外の人間全て。クラスメート、友人だった私のことも完全に忘れてしまっていたのだ。
しかし、両親についても曖昧で、断片的にしか記憶に無いようだった。

無理に思いださせることなく、自然にクラスメートと溶け込んで、自然にみんなと遊べていけるように、生活していけるようになってほしいと医療機関からメッセージがあったそうだ。
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