架けた流星
□【相談者】
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昨日、お墓で遭遇した全身黒い人が、なぜか家にいて。
しかも堂々とソファーで寝ていた。
『・・・・・え』
数秒、その黒い人を見つめる。胃がキリキリして、嫌な汗が発生する。
(き、昨日夜中まで頑張ったし、疲れてるんだよ、きっと、ははっ
これは幻覚だ。絶対幻覚。顔を洗えば消えてる――)
『・・・・・』
顔を洗いリビングに戻るが、その人は消えることがなかった。
2、3回洗い顔が荒れたが、肝心の黒い人は消えることはない。
(・・・つ、次洗ったら消える次・・)
≪さっきから何やってんだお前≫
『ッ!!!!!!!不法侵にゅっぎゅ』
いつの間にか背後に立っていて、振り返った途端手で口を塞がれた。
あれ?
デジャビュ…。
≪不法侵入じゃない、死んでるから無罪だ!≫
『・・・てことは、あなた・・・幽霊?』
≪あぁ≫
『うぎゃああああぁ!!!もう勘弁して!!!ぐッ?!!』
叫びながら早足で逃げた雪の腕を一瞬で掴み、幽霊の元へ引っ張られた。
こんな力が強い幽霊に遭遇したのは初めてだ。
≪叫ぶな!!後々面倒なことになるぞ!!!≫
『出てけ!!悪霊たいさーーーーむぐっ!!』
急にキレた幽霊にパニックになり、またすぐに口を塞がれ、今度は壁側に追いやられた。下半身も相手が足で固定してるし動けない。
前から、霊感が強いせいで色んな奴から奇襲を受けてきた。髪の毛を引っ張られたり、歩道を歩いていたら、車道のほうに引っ張られて事故をしたり。
その時は手足の骨折などで済んだものの、こんなにリアルに襲われるのは生まれて初めてなのだ。
(なにこの状況?なにこの状況ー!!誰かぁあ!!)
絶体絶命のピンチの中、相手の幽霊は呆れたようにため息をつき、困ったような顔で雪を見ていた。
≪いいから黙ってくれ≫
『んぎゅーううぅ』
とにかく"助けを呼ばなければ"と必死で口の隙間から声を出した。
自分の不運を呪いながら相手に睨みかける。相手は男の人だ。
力の差は天と地で、私が叶うはずはなかった。
悔しさで涙が頬をつたい、相手の手背にポタポタと落ちていく。
今回は骨折では済まないのかも知れない。命に係わる大事件になる。そんな感じがしていた。
『むぐーううぅーうぅーぅうっ』
泣きだした雪を見て相手は、すぐに手を離した。
罪悪感を感じたのか、雪に気遣うようになった。
相手はあたふたしながらも、袖口で涙なのか鼻水なのか分からない液体を拭ってくれた。
≪よく聞け。別にお前を殺すとか魂とるとか、んなことしない、誓う。絶対だ!≫
『・・・・・なんで?』
幽霊さんの言葉で、疑問は残るがなぜだか安心した。
けど、まだ油断はできないよね。
知らない人の話は信じちゃいけないっておばあちゃんに言われてたのに――
(あれ?おばあちゃん?
なんで今記憶が?)
てかこの人、昨日よりも体温がある。
手が口に触れた時、昨日みたいに冷たさを感じなかった。
なぜか、生きてる人みたいにぬくもりがある。体も触れられるし、謎だらけだ。
でも、足元を見ると、床に写るはずの影は無い事に気づいた。
――この幽霊さんは、何の為に
幽霊は落ち着きを取り戻した雪に安堵し、疲れた様子で溜息をついていた。
≪とにかく、話をさせてくれ。≫
フードを外したその姿は、私と年差もあまり変わらない黒髪の、綺麗な海色の目をした男の人だった。