架けた流星

□【星の瞬き】
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俺は波留陽。中学1年で天文部に所属している。
小さいころから星が好きで、この学校に入学したのも天文部があると知ったからだ。
終わりのチャイムが鳴ると、足早に部室へ向かい、望遠鏡の整備をするのが日課になっている。

二階東棟の端にあるベニヤ板が剥がれかかっているドアを開けると、天文部に設けられた部室がある。
正式名称は第3倉庫であり、まだそう呼ぶ人も少なくない。
天文部などあるのかすらも知らない生徒たちがまだいるのだ。

俺らが入学した時は、部員はゼロで。廃部状態に陥りかけていた。二人以上の部員がいなければ"即廃部"と顧問からそう告げられたのを思い出す。
然し、幸いにも直ぐに一人入部が決まり、廃部は免れたのだ___。

部室といっても、この部が作られたときは部屋すら設けられていなかった。
天文部としての物品などもなく、先輩部員が協力して集めたお金で買ったらしい。

部室も使っていない倉庫を無理やり改造し、机なども用意してくれた。
倉庫という機能もあるので、部屋の隅々に教材の荷物が積み上げられていて、そこだけ別世界のように成り立っている。
今は、望遠鏡などの部品や、星の動きを観察するための撮影器具なども一通り備えてくれている。


これで、この夏の自由研究に役立てようと思うが、目標がまだ見定まっていない。


ギシ…ギシ……

この学校の中で、この東棟が一番古い。昔は東棟だけだったようだがこの学校も今や生徒たちは大幅に増え、最近になって中央棟・西棟と、拡大していった。
東棟だけは木造建築で築何百年という由緒ある建物なので、修理も程々にしているらしいが安全面としてはどうなんだろうかと、ふと疑問になる。
部室も床が所々老朽化していて、歩くたびイビツな音が部屋中に響きわたる。

たまに床が抜けて、大騒動を起こしたことがある。
思い出しただけで笑いがこみあげてくるが、まあ本人がいないので怒られることはないだろう――――



『・・なにニヤけてんの?』

「ッ!!!」

急に背後から声を掛けられた波留は、一瞬体中の筋肉が硬直したような感覚に陥った。

後ろを振り返ると、部員仲間の"神山雪"が少し驚いた様子で立っていた。

『そんなに驚かなくてもいいのに・・』

神山は部室の椅子に座り、くつろぎながらポテト菓子を食べ始めた。
部屋中にボリボリと咀嚼音が鳴り響き、菓子匂いが充満し鼻につく。


神山といえば、手にお菓子の袋を持ち、女らしからぬ行動をするイメージが俺には強い。

しかし、友人の男どもはクールで、ミステリアスな彼女に好印象を持っているとの噂を知ったとき、俺は何故か身震いをし、さぶいぼが立った。
本人曰く、親しい人の前でしかだらけた事をしない様だと後に知った。
野郎達には永遠に知る由もない現実を少し事実を交えて話してみても、誰一人信じる者はいなかった。まあ、親しくなれば幻想だと気づくだろう。


「ったく…誰だって驚くだろ」

気配すらしなかった・・。
心臓に悪い、この女。
俺は胸に手を当てながら心臓が稼働しているか確認した。
よし、規則的に鼓動している。

『いつも一緒にいるから、声で分かると思ったんだけどな。』

「背後から声を掛けるのは、やめろ。」

取りあえず、神山に構ってる暇はないぞ。あと2日で夏休みに入ってしまうからな。
この学校は、夏休みの宿題をやらなくてもいい代わりに、自由研究をやってくれば課題相当の点がもらえるので、何ともゆるい学校だなと最近になってつくづくそう思う。

けど、自由研究の課題の研究するのか、まだ悩んでいるんだよなぁ・・。

『あっ・・そういえば昨日テレビで流星群の特集やってたんだけど見た?
8月の中頃に極大期になるんだって!今から願い事考えなきゃ。お菓子にしようかな〜』

「そうか・・・」
頭をぐしゃぐしゃ掻きながら、返事をした。

(そういえばペルセウス座流星群の季節だったな、ただ単に観察・撮影だけじゃ、つまらないよな。
でもまあ、難しい事はやめようか、疲れるのは俺だし。
なんなら、撮影しながら数でも数えるか
毎時間ごとにチェックをして――)

「神山、お前のヒント(アドバイス)で助かった。自由研究は流星の数を数えることにした!!」

―――はい?

雪は一瞬、相手が何を言ったのか理解できないでいた。
唯一理解できたのは、何かよからぬ考えをする時に限って、頭をボリボリ掻く癖のことだった。
いつの間にか寒気がし始めると同時に、嫌な汗が流れ始める。

まさかとは思うが、まさか…?

『え、自由研究?』

「今回は難儀だな、日没から日の出までの流星の集計を取るから前みたいに徹夜だな。まぁ二人居れば大丈夫だろ」

あれ。目の前が霞んで見える。

波留くんの笑顔が今は、憎らしく感じる。
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