架けた流星

□【登校日 @】
3ページ/3ページ

ここで、籠目中学校の東棟校舎について話そうと思う。
この学校は新と旧の校舎があるということは知っているだろうか、その一番古い校舎を今では東棟校舎といい、幾多の時代を乗り越え、長い間生徒たちを見守ってきた二階建ての木像建築だ。
時が経つにつれ、この町が活発になり移住してくる人たちが集まったところで増改築され校舎が増えた。
住民が増えても、生徒がすぐに増えるわけでもないけれど、一人一人がのびのび勉学に励めるようにとの願いが込められている。

ところで、なぜいま東棟校舎について熱弁しているのかと言うと、私自身"アレ"はなんだったのだろうかと、ふと気になったからであって特にこれといった理由もない・・・と言ったら嘘になる。
本当は、思い出したくもないし掘り起こしたくもないが、話しておいた方が今後の状況を呑み込みやすいだろうから包み隠さずさらけ出そうとおもう。
私がここに入学して早々、あんなにも血の気が引き恐怖した"あの図書館"での話を―――。

この学校には二つ図書室がある。
一つは西棟二階に位置し、漫画から雑誌まで色とりどりの品ぞろえがあり生徒がよく出入りする図書室U。
そして、もう一つは二階東棟に位置する、古文書や歴史書などを揃える図書室T。
図書室Tは、部屋が老朽化していることもあって生徒があまり立ち入らない。どれぐらい来ないかというと、先生すら入るのを拒む、と言えば理解できるだろうか。
大人が怖がれば生徒達にも伝染する。そりゃ誰も来なくなるに決まってる。
なぜそんな事になっているのか、いろいろ理由はあるのだけれど、つまりは"怪奇現象"が主な原因だ。
生徒の一部は「幽霊を目撃した」との証言もあり、色んなウワサが飛び交っているらしい。これではますます人が寄り付かなくなってしまい、活字に触れる機会を失ってしまう。
そんな危機感を覚えた先代の教師らが
新しく図書館Uを新校舎に増設することを決断。


古文書に興味を持つ生徒たちは多くはないが、ここ最近僅に増えつつあって、怪奇現象に目もくれない強靭な精神力が備わっている生徒達がちらほらと図書室Tに入っていく姿を見かける。

ごくたまに誰も手に付けたことが無いような珍しい本に出会えることもある。
そして、そんな僥倖に出会ってしまった人は、消えてしまうらしい。
つまり、神隠しに遭うのだ。

「そんな都市伝説あるわけない」なんて誰もが疑問に思えるのかもしれない。
だが、私には「神隠しは確実にある」と断言できる理由がある。
あの時、目撃したのだ。
目の前で人が消える瞬間を―――。


二階東棟『図書室T』

_1-A 香西ミヤコ_

「うううっ。こ、このドア、おーもーいーっ!!!」

立てつけが悪いのか油さしを怠っているのか定かではないが、ここのドアを開放するだけで一日分の労力を使い果たすと噂されており、見るからに不便極まりない建具であることが窺い知れる。


その動作だけで誰もが息を切らせ、汗がしたたり落ちる。
この時期だと特に厄介だ。

「ハア、ハアッ、もー!登校日に朝の会で読書があるなんて、きーてないよ。咲ちゃん教えてくれたらいいのにーー」


ギィイ...イイ...

図書室に足を踏み入れてから物の数秒、背後から不気味な音が発生した。
香西の顔は見る見るうちに真っ青になり、冷蔵庫にでも入ったかのように全身が委縮し、それに伴い背筋が凍り付いていた。

「!?な・・に」

ガタッ...ガタ.....ガタ...

不可解な音はまだ続いていた。
誰かがあの重いドアを揺らしているのだと推測できるものの、香西以外この部屋には誰もいないはずだ。

「っ・・・!!」

真相を確認する為、意を決して振り返ると
ドアの開閉により起きた風が圧縮され、他動的に動かしていただけだった。


「――なぁんだ風でドアが鳴ったのか、早くさがそ。
短いやつ、短いやつ〜おっ、この本表紙が可愛い〜〜〜っ。"掌に続かれる征路"…なんとなく難しそうだな。」


キーンコーンカ__...


「ッチャイムだ
もーこれでいいや。朝の会始まっちゃうっ」

貸し出しのノートに必要事項を記述し、部屋を出ようと足を前に出した瞬間。
先ほどの恐怖心が再び香西を襲うのであった。


ガサッ・・ガサガサッ・・・


「ッ?!まーさか、あの黒い奴?!」

夏によく出現する、全身真っ黒でテカリを帯びているあの虫なのではないか、と一瞬予想するものの、それは大きく外れることとなる。



ガタンッ…ガサガサ………

ガサガサガサガサガサガサ

「ッは?!!!―――」



------------

一階中央棟『1-A教室』


_担任 荒井小夜_


「おっはよーう!!!!みんなぁー元気にしてたかーー??
もう焼いたやついるなー。
はっ元気なことで安心したよ!!」

「「「「せんせー朝から煩いっ暑いッ!!!」」」」

「暑いのはみんな一緒だッ!!我慢しろーー!
出席とるぞー!相原ー..朝生ー..井上ー..」

『(声だけで気温上がってそう・・・)』


「――あのっ…荒井先生・・」

暫くすると、和久井咲が弱弱しく手を挙げ、担任に声を掛けた。
表情から察するに、焦っていて発音が弱弱しく、只事じゃないと読み取れる。

「ん?どうした和久井?お前は最後だぞ。」

「ち、違います・・ミヤコちゃんが図書室に行ったっきり、戻ってません。」

『(香西さんか、さぼってるんじゃないの・・見た目的に。)』

アンナと同等にリーダーシップはあるけど、頭の良さは私と変わらず中の下らしい。

よし、ようやく私との差が開いたぞ。


「はあ??あいつ・・・ついにさぼりかぁ!」

「荒井先生・・・私、探しに行ってきますっ」

「んな慌てるな〜先生もついてくぞ!終わるまで待ってなさいね〜。」

優しくそう言った担任は目だけは笑ってなかった。背後に暗雲が立ち込めているかのようで、生徒全員の背筋が凍り付いた。

和久井さんは、頬に冷や汗をかき、あたふたしながらもゆっくり席に座り直した。

グッドラック、香西さん――。



-----

「よっし、んじゃ香西を連れてくるから!静かに読書してろよー」

熱い出席確認も無事終了し、担任は和久井と共に教室から出ていく直前に、雪は何か引っかかっていた。

『(、読書?・・・あッ!!!本忘れた!!!!!)先生!本、忘れました。』

「ぁあーーーッ??!神山ぁ、あんた前も忘れたよねー。」

『前じゃないです、前の前でs「はーーー言い訳は良いんだよッ!前の前でも一緒だ!」

『(一緒じゃないよー!前はちゃんと持って来たんだからーー!!)…はぁ』

「ッチ…仕方ないね。あんたも付いてきな。」

『(っええええぇ??!さぼろうと思ったのにー!)はぃ…。』

ボソッ「ばーか」
ボソッ「がんばれー」

嫌々席を立った雪はアンナと真歩の前を通りすぎた時、応援と嫌味を同時に聞き取り、
返す表情に困った。



『(んなことなら言わなきゃよかったよ…)』




―――雪はまだ知るよしもなかった。

この後起きる事件に理不尽に巻き込まれる事になろうとは・・・。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ