時の雫

□第1話
1ページ/3ページ


引き戻された現実の世界は、カーテンの隙間から漏れる日の光が朝の訪れを告げていた。

「……チッ」

軽く舌打ちすると、シリウスは寝返りを打って、枕元に置いてある時計の文字盤に目を移す。
――八時半。
時計を元の場所に戻すと、ベッドの上に上体を起こした。
夏休みの間に伸びた前髪を無造作に掻きあげると、ベッドから降りる。
真っ直ぐに窓際まで歩き、窓を覆うカーテンを開けた。
差し込んできた光に少し顔を顰めながら、シリウスは小さく呟いた。

「…“My dearest”、か……」



第1章
繰り返し見る夢に 目が覚めてみると




キングズ・クロス駅、9と4分の3番線。
早々に見送りに来た家族と別れると、シリウスは一昨年出来た友人を探してホームを歩いた。
が、ホグワーツに通う全生徒が此処に集まると言っても過言ではないこの時に、探し人を見つけるのは容易いことではなく、シリウスも例に漏れることなく、友人探しは難航していた。

――と、なんとなく人混みから目を離したとき。

(……似てる…)

ホームの隅に蹲る人影。
俯いているため顔は見えないが、日に輝く銀色の髪は長さが違うとはいえ、夢の中と同じもので。
夢などという不安定な世界の住人。
直感だった。
けれど、確信を持っていた。
自分の中で何かが動いたのは確かだったから。

シリウスはゆっくりと彼女に近づいた。
眠っているのか、顔は伏せられたままだ。
目線を合わせるために屈み、彼女の髪にそっと手を伸ばした。
その、時。

「触れるな」

不意に、背後から声がした。


背中に杖が突き付けられている――それもまた、直感だった。
シリウスが動けないでいると、冷たい、まるで何の感情も待たないようなその声は言った。

「穢れた手で触るな。このまま去れ。さもないと――」

背中の杖に力が込められるのを感じた。

(…ヤバイ)

額に汗が浮かんだ。
気配でわかる。
相手は、タダ者じゃない。

(さて、どうしようか…)

今ここで反撃して打ち勝つ確立は五分といったところか。
下手に動くと徒で済まないことは目に見えていた。
それならば。
相手の要求は“このまま去る”こと。
難しいことじゃない。
そうすることでこの状況から逃れられるのならば、簡単なことだった。
そう考え、要求を呑むことを伝えようと口を開いた時、目の前の少女がぴくり、と動いた。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ