Disharmony.

□8,Vivace.
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その日、グリフィンドール塔の練習室から流れ出た“歌”を耳にした者は少なくなかった。
その後、練習室から出てきた“サリィ”とリリーを見た者も、また少なくはないのだった。


Vivace.


「ねぇ、昨日歌っていたのはサリィなんでしょう?」
「どうして今まで黙ってたのよ!」
「水臭いなぁ」
「『音痴だ』とか騒いでたのは何処のどいつだ?」

翌日、談話室に下りた途端に、エリィは大勢のグリフィンドール生に取り囲まれた。

「ぇ、えっと…出来れば、通してほしいかなー、なんて…」

エリィの細やかな願いも虚しく、グリフィンドール生達はエリィを離す気はさらさらないようだった。

「これで音楽祭の優勝はわたし達のものね!」
「この分なら心配ないな」
「他の4組がよっぽど悪くない限りはね」

言えてるー、と騒ぐグリフィンドール生達はもう既にエリィのことなどそっちのけだ。
いつだったかサリィが言っていた「グリフィンドールほどお祭好きの人っていないんじゃないかな」という言葉の意味を、今身にしみて実感するエリィだった。

(要するに、浮かれ騒ぐ機会を逃さないってことね…)

もみくちゃにされているエリィは何処か疲れ顔だ。
各自でお喋りを始めたグリフィンドール生達から、なんとか抜け出そうと試みるが、人垣の山から抜け出すことは思った以上に困難らしい。
一緒に談話室に下りてきたはずのリリーの姿も見えない。

(こんなことになるなら、窓開けなきゃよかった…)

練習室は防音魔法がかけられているため、窓を閉めれば外に音はひとつも漏れなかっただろうことを思い返して、エリィは溜め息を吐いた。
と、その時。

「悪ぃな。ちょっとこいつ借りてくぜ」

という声と共に、体が浮くような感覚を覚える。

「ひぁっ!」

甲高い奇声を発し、エリィは自分の体が誰かに持ち上げられているのを、腰に回された手を見て理解した。
相手の顔を確認する前に肩に担ぎ上げられ、エリィからは相手の背中しか見えなくなった。

「ちょっ、降ろし…」
「助けてやってんだから黙ってな」

エリィにだけ何とか聞こえる程度で囁かれた声に、エリィは黙るしかなくなってしまった。
エリィを担ぎ上げた人物は、周りに群がるグリフィンドール生達を物ともせずに、談話室から離れる。

「…ぇ、ちょっと待って。この先って…」

顔を上げたエリィの目に映ったのは、女子寮に続くドア。
エリィを担ぎ上げている人物がそこに背を向けて歩いているということは、行き先は――…

(男子寮じゃない!)

そう思ったときには、もう既に男子寮に入っていた。
それでもまだ降ろしてくれる様子がないので、エリィは仕方なく呼びかけた。

「…ねぇ、もう降ろしてくれたっていいでしょ?ブラック」

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