Disharmony.
□1,Prelude.
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「お願い、エリィ!夏休みまで、サリィ・セイクリッドになって!!」
その言葉が、すべての始まりだった。
Prelude.
「あのね、サリィ。確かにあたし達は双子よ。よく似てるってたくさんの人が言うわ。けど、わかる人にはわかるのよ?あたしとあなたは性格が全然違――」
「大丈夫よ!わたし達がその気になれば、父さん達を騙すことだってできるんだから!」
サリィは、双子の妹エリィの言葉を遮って叫ぶ。
そんな姉にエリィは溜め息をついた。
「だからって、それとこれとは話が別でしょ?夏休みまでなんて長すぎるわ」
そう、今はクリスマス休暇。夏休みまで、半年はある。
「第一、あなた、あたしと間違えられるとよく怒るじゃない」
「それこそ話が別よ!エリィが“わたし”になってくれなきゃ、わたしがみんなに怒られるわ!」
喚き散らしながらも、サリィの瞳には少しずつ涙が溜まってきていた。
「…お願い、エリィ。わたし、みんなに迷惑かけたくないの……」
「“みんな”に迷惑がかからなければ、あたしには迷惑かけようがどうでもいいってわけ?嫌よ、あたしは」
「……エリィ、一生のお願いだから…」
サリィは目に涙を溜めたまま俯いて、鼻をズズッとすすった。
「泣かないでよ、サリィ。あたしだって出来ることなら協力してあげたいわ?けどあたしは“サリィ”にはなれない。だってあたしは“エリィ・セイクリッド”なんだから」
「わかってるわ!わたしはわたし、エリィはエリィよ。でも、今回のことは、わたしには絶対出来ないの!エリィじゃなきゃダメなの!音楽発表会のソリストなんて!!」
ホグワーツ魔法魔術学校で、今年度末に寮対抗音楽祭が開催されることとなった(事の起こりは、校長であるアルバス・ダンブルドアが招待されたコンサートの演奏に感動したことにある)。
それは、各寮から5組の代表グループが参加し、それぞれ20点、合計100点満点で審査されるというものだ。
そして、サリィ・セイクリッドもグリフィンドールの代表グループの一人に選ばれていた。
「わたし、音痴なのよ?!知ってるでしょう!!」
今や、サリィは泣きながら叫んでいた。
「ちょっと落ち着きなさい、サリィ。ソロなんて、他の人に代わってもらえばいいじゃない」
「それができたらエリィに頼んだりしないわよ!それがあの眼鏡、『公平に決めたことなんだから、しょうがないさ』とかぬかしやがってー!!」
暴走を始めたサリィを見て、エリィは2回目の溜め息をついた。
こうなると、サリィはしばらく放っておくしかないだろう。