キカクモノ

□第三回web
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でも、奏でる音は魅力的で、接してみると可愛いかった。

「あんたを好きになった、って言ったら応えてくれる?」
彼が残した、言葉。
そうして彼はこの学院にやって来た。
実力も実績もある彼の噂は、普通科にも聴こえてきた。
普通科と音楽科。
最上級生と一年生。

接点など、一つもなく。
校内ですれ違う事も、会話する事もない。
ごくたまに、今日のように後姿を見かけるだけ。
…もう、やめようか…
期待するのは…。
あの言葉も、二人で踊ってワルツも、なかった事にしてしまおうか…

「日野さん。どうしたの?」
「加地君。」
「…4月になってから、君の音が、寂しそうだよ。」「…何も…」
「何もない、なんて言わせない。
さっきのヴァイオリンの音は哭いていた。」
「………」
哭いていた…か。確かに私は泣いている。

「…!!」
いつもの加地君ではない、イヤだ!
掴まれた腕を外そうとすると、抱きしめられた。
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