Vampire

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朝起きると、目の前にジローの顔があった。
いつのまにブン太のベッドに侵入してきたのか、隣で寝息をたてる相手にぎょっと仰け反る。
(なんでジローが……)
あまりの驚きにバクバクと高鳴る心臓を押さえて、思わず蹴りだしそうになった足を引っ込めた。
それは、その寝顔があまりに気持ちよさそうだったのと、ちょっとした罪悪感に気持ちが逸れたことによる。
寂しいなんてガラじゃないはずなのに。
昨日、ジローの携帯電話が見つかって、目が合った時、心の内を見透かされたような気がして、思わず急かすように電源を入れさせた。
しかも、電話が壊れていると知った際に、少しだけ、ほんの少しだけ、安堵したのも事実だった。
(心狭いっての、俺)
自分の思わぬ心情に自己嫌悪だ。
そもそもそんなことを思うのはジローが来てからの毎日が騒がしかったせいだと思う。
ベッドから抜け出して、着替えが終わってもジローは目覚める様子もない。
「相変わらずよく寝るよな」
鼻頭を軽く摘むと苦しそうな表情はするもの、それでも眠り続ける。しばらくそうやって遊んでいたが、すぐに飽きて朝食を作ろうと台所へ向かった。
何を作ろうか、と冷蔵庫の中を見回すが、
「うっわー空っぽ」
主食となるパンも卵もハムもチーズも何もない。
「仕方ねえな。買ってくるとするか」
財布だけを手ポケットに突っ込んで、近くのコンビニに行くことにしたブン太はそっと玄関を出る。
ジローはまだ眠っていた。


***
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