Vampire

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ジローの様子がおかしい。
妙に明るかったり、たまにボーッとしたり、というのはいつものことだったが、無闇に甘えてくることが少なくなったように思う。
そのわりに、あれ以来時折遊びに来てくれる幸村には、慣れたせいもあるのかブン太に接する以上にくっついている気がする。
話しかければ普通に話すし、笑いもする。それなのにどこか空々しい気がして面白くないのだ。
ジローが感じていた嫉妬心らしきものを、同じように感じているのだと認めてしまえば楽になるのだろうが、他人にも自分の気持ちにも鈍い方の部類に入るブン太にそれは無理な注文だった。
(俺、何かしたか?)
考えても、これといって思い当たるふしもない。
むしろされた方であるはずという理不尽さばかりが募っていく。
「ねえねえ幸村くん、これ何?」
すっかり起きられるようになったらしいジローが、リビングのソファに座った幸村にまとわりつく。
それを煩がるわけでもなく、幸村は指差された雑誌の説明を始めた。
ガーデニングを主体としたその本は、綺麗な花の写真がいっぱい載っていた。この花は何?などと隣に座り込んでぴったりと離れないジローにも幸村は丁寧に対応する。
「これはビバーナム」
「アジサイじゃないの?」
「確かに色づく前の紫陽花に似ているね」
淡いグリーン色をした、手鞠のように丸く咲く小花を眺めて歓談する二人に、だんだんとブン太はイラつきを抑えられなくなっていくのがわかった。
(だー! 俺らしくもないっ)
言いたいことがあるならはっきり言え、と己を叱咤して、「ジロー!」と名前を呼んだ。
「うわっ! はいっ!?」
急にかけられた声に驚いたジローが顔を上げる。
「…………明日の昼飯何が食べたい?」
しかし口から出たのはまったく違う台詞だった。
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