Vampire

□2
1ページ/5ページ

甘い匂いがする。
とても美味しそうな―――今まで嗅いだことのないような甘い香り。
くんくんと鼻をひくつかせて、ジローは目覚めた。
重たい目蓋は起きるのを拒否しているかのようだったけれど、それはまあいつものことだった。
開け放たれたカーテン。窓の外は、すでに日が昇って久しいようで、眩しいくらいの光に満ちていた。
差し込んでくる日差しに手をかざし、グーパーと動かした指を見てジローはホッと息をついた。
ここはどこだろう?
目を細めながら眺めた部屋の中は綺麗に片付けられている。
少なくても自分の記憶にはない場所だ。
何があったかを思い出すべく、とりあえず横たわったままだった身体を起こそうとした瞬間、言葉にならない悲鳴が漏れた。
「〜〜〜〜っ!!」
身体の節々に走った、形容のできない痛み。思わずこぼれた涙がその激痛を物語る。
そして同時にジローは自分の身に何が起きたのかを思い出した。
屋根から落ちたのだ。間抜けにも。
(でもここって……)
ぐったりと背もたれにもたれかかって、きょろきょろと頭だけを動かす。
とりあえず首から上は無事なようだった。
窓から見える景色はなんとなく見覚えがあったが、そこに見える家が昨日自分の落ちた場所だと気が付くには多少の時間を必要とした。
「おぅ、起きたか?」
するとそう声をかけられて、ジローは反射的にびくっと身をすくめる。
「………あ…」
涙目のまま顔を上げて声のした方向を向くと、そこに立っていたのは一人の少年だった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ