Vampire

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生暖かい風が吹いた。
動かずにじっとしていても汗ばむ気温は、日が沈みきって辺りが暗闇に包まれる時間になっても下がることがない。
月のない夜。
本来ならば、眼下に望む家々からは、開け放した窓に光が漏れて、夜中だというのに煌々とした明るさに包まれている。
だが、今日はこのあまりの暑さのせいか、どこの家も空調の世話になっているのだろう。締め切ったカーテン越しにぼんやりとしか漏れてこない明るさに、闇の深さを感じ取れた。
そんな中。
なだらかな傾斜の屋根の上で、うーんと背伸びをした影があった。
眠るにはいささか早すぎる時間帯であるにもかかわらず、電気のついていない家の中は真っ暗で、家人が留守であることが察せられる。
野良猫のように勝手に敷地に侵入しているという自覚があるのか、物音を立てずに立ち上がった動作は間延びしたように静かだったが、屋根の上という特殊な場所ではそれすら奇異に見える。敏捷な猫というよりは、まるで寝起きの犬のような怠惰さだ。
「そろそろ行かなきゃ駄目かな〜……」
憂鬱そうにそう呟くと、闇夜でも目立つ金がかった黄色の髪の毛を片手でぐしゃぐしゃと掻き分けて、はあっとため息を吐く。
どこに?なんて返答があるわけでもない。
一人きりの呟きは空中に融けるように消えてゆくばかりだ。
集合の時間まではあと何刻もない。
今まで眠っていたためか、しょぼつく目を擦りながら、名残惜しげに一歩足を踏み出したその時だった。
一際強い風に吹かれて煽られた小柄な身体がぐらっと傾いだ。
声をあげる暇もなく、わたわたとバタつかせた手足は宙をきって、重力に逆らうことなく落下していくのを避けることができないまま。
隣家の明かりを祈るように眺めながら、彼は地面に吸い込まれるように堕ちていく身体ごと意識を手放した。

***
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