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□どうしよう
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「丸井くんにお願いがあります」
居住まいを正して、珍しくも正座などし、そう切り出したジローの台詞は耳を疑うようなシロモノだった。
(いま、なんて言った、こいつは……?)
ブン太の胸中が、まさかな、という気持ちでいっぱいになる。
テレビ画面に反射して映った顔が微妙に引き攣って見えた。
「わりー、ジロー。もう一度言ってくれ」
聞き違いだろうと期待を込めて、ゆっくりと問いかけたにも関わらず、けれど、ジローの返答はきっぱりとしたものだった。
「ヤらせてください!」

思わずブン太は握り締めていたゲーム機のコントローラーをボトッと落とした。


たしかに今日のジローは会った時からどこかおかしかった。
妙にそわそわしたり、話しかけても気もそぞろで返事が上の空という感じだったり。
目が合ってもすぐに逸らされて、何か言いたいことでもあるのかとは思ったが、まあいいか、と放っておき一人ゲームに興じていた。
ジローの部屋に来た回数を数えれば片手で足りるくらいのもので、目新しいものはまだたくさんあるため退屈はしない。
だから部屋の主がなぜか今日に限ってブン太から距離をとり、無口気味であってもたいして気にはとめなかった。
そんな最中のジローの告白がこれだった。


「ヤらせてください!」
「……ぁあ!?」
意を決したかのように、きりっと見つめてくる真面目な表情。
そんなジローの口から出た台詞は、やはり疑いようもなく、そうであってほしくないものだった。
ブン太の手から落ちたコントローラーは床に転がっていて、操り手のいなくなったゲームは画面にゲームオーバーの文字を浮かび上がらせていた。
コンティニューすらもできずにそのままの格好で固まったブン太の頭に、一瞬置いてじわじわと血が昇ってくる。
(ヤらせて……って…やっぱそういうことだよな…?)
信じられないものを見るような目でジローを見てしまう。
顔が赤くなったのがわかったが、それが恥ずかしさによるものなのか、怒りによるものなのかは自分でも理解できない。
「……ジロー……」
「…………はい…っ…!」
手招きして近くに寄るように促すと、ジローは瞳を輝かせてズイっと身を乗り出した。目の前に迫った、そんなジローの頭に容赦なく鉄拳を振り下ろす。
「ざけんな」
うっ!という呻き声が、クリティカルヒットしたジローの口から漏れた。
「……う〜……いってぇ……」
撃沈して床に手をつき、蹲った相手を見下ろしてブン太がふんっと鼻をならした。
それはもう多分に照れ隠しが含まれている上での行動ではあったのだが。
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