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□子供の日
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「丸井くん……明日の予定は?」
そう問いかけたジローの声は不安で強ばっていた。
連休もすでに終盤にさしかかっている中、今年はどこにも旅行する予定がないことは前もってリサーチ済みではあったが、明日という日をブン太が一緒に過ごしてくれるという確証はどこにもなかったがために。
「明日?ああ、弟たちの面倒見る約束になってたな、確か」
両親が仕事でいないから、どこかに遊びに連れて行ってほしいと頼まれたのだと、溜め息と共に返ってきた答えだったが、それは心底迷惑がっているわけではなく、どこか楽しそうなものだというのが電話越しでも伝わってきた。
この時のショックはどう言い表したらいいものか。
ブン太が弟たちを可愛がっているのは知っていた。
けれど。
「ねえ……明日って何の日か覚えてる……?」
一縷の望みをかけてそう聞いてみる。
5月5日。
そう。明日はジローの誕生日なのだ。
しかしながら、それを主張したところで「だからどうした?」という反応が返ってくることはわかりきっていた。
それでもブン太がこの日を覚えていてくれて「おめでとう」の一言でもあれば幸せだと思えたのだが――。
「子供の日だろぃ」
それ以外に何がある?とあっさりと言いかえされた。あたりまえのことを聞くな、と。
(あああ〜……やっぱり……)
そんなブン太の様子にジローは心の中で滂沱の涙を流す。
2週間前にあったブン太の誕生日は、ジローにとっては忘れられない大事な日だった。大好きな丸井くんの誕生日。それだけで心が踊ったというのに。
ブン太はそうではないらしい。それ以前の問題として覚えていてももらえないこの現状が……。
(わかってたけど、ちょっと切ない……)
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