Main

□何でできてる?
1ページ/6ページ

カカオマスに砂糖。甘い甘いチョコレート。
細かく刻んでテンパリング。水分が混じらないように注意して。チョコは40度になったら25度まで冷ますこと。そこからまた湯煎にかけて30度。
綺麗に仕上げるのに大事な温度調節は少々面倒くさい。
「うーん、こんな大変なことだったとは思わなかった」
いつも普通に食べているチョコレートは、良く知れば奥深かった。自分で手作りしようと考えなければ知らなかった事実だ。
ボールの底で滑らかに溶けている甘い匂いに、ゴムベラを持った手を動かしていたジローは唸った。
放課後の調理室の一角で、持参してきたエプロンに身を包み格闘している、そんなジローの周りには女子が沢山集まっている。
「芥川くん、それもうそろそろ冷ましていいよ」
時々ぼうっとしがちになるジローにてきぱきと指示を出してくれる彼女らは、この場を部活の拠点としている料理部の面々だった。
丸井くんにあげるチョコは手作りしようと心に決めた際、家には必要な器具が揃っていない上、もし出来たとしても兄や妹に食べられるおそれがあることから、悩んで思い出したのが学校の調理室。
材料さえあれば他に準備するものもないし、わからないことがあったら誰かに聞けるし一石二鳥。というわけで、早速頼み込んで一日だけ片隅をこっそり借りたわけだったのだが、気がつくとなぜかみんな自分の部活はそっちのけでジローの手伝いをしてくれている。
バレンタイン間近なこともあって、みんなジローに触発されたのか、今日の部活はチョコを使用したものに変更になったらしい。全員合わせた持ち込み量は大量で、室内全体がむせかえるようなカカオの香りで包まれていた。
「これ?もういいの?」
「そう。こうやって氷水につけて冷ましてね」
お手本になるように自分の分を指し示しながら教えてくれる女子は、手際よく混ぜながらラム酒などを加えていく。弱いアルコールの香りが鼻孔をくすぐった。
「何かトッピングしたいものとかある?色々揃ってるよ?」
トリュフにするなら生クリームを入れるし、チョコケーキにするなら作業はもっと複雑化してとても手に負えそうにない。シンプルに溶かして、型に流し入れるだけを選んだジローは、テーブルの上に広げられた色とりどりのカラースプレーやアラザンなどを眺めて、ぶるぶると首を振った。
「トッピングは俺の愛がE!」
なぜかクスクスと笑いが広がるけれど、頓着せずに鼻歌を歌いながら、艶がでてきたチョコレートを見て満足げに頷いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ