Vampire

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「ありがとうございました〜」という店員の声を後ろに聞いて、ブン太は自動ドアを抜けた。
朝だというのにすでに暑い。
牛乳やパン、ガムなどのおやつ。
ムッとする空気に顔を顰めながら、コンビニの袋の中に詰まった中身を確かめて、買い忘れがないかチェックする。
そろそろジローも起きたころかと自然急ぎ足になるが、そこでつと足を止めた。
「ネコ?」
まるで通せんぼするように道の真ん中を塞いで、対峙する。
ずいぶんと存在感のあるやつだった。首輪はしていないが、野良にしては育ちが良さそうな。
そんな灰色の猫に一瞬気をとられた。
「―――んーっ!!」
背後から布のようなもので口を塞がれてブン太は目を見開いた。
何か薬が含ませてあるのか、ツンという鼻を刺すような臭いがする。
なるべく吸い込まないようにと思ったけれど、その時にはすでに遅く、目眩のような感覚に襲われた。
力の抜けた手から袋が滑り落ちて、コンクリートの道路へ転がる。
霞む視界と遠のく意識の中で、ブン太は近寄ってきたネコが人間へと姿を変えるという幻覚をみていた。
「招かれへんと家ん中入れんとはいえ、誘拐なんてアコギな真似やなぁ」
「うるせーぞ、忍足。いいから連れてけ」
「はいはい。」
元ネコに指図され、肩を竦めて仕方なさそうな返事をするメガネの関西弁の男が、側にいた大柄な男に声をかける。
「ほな、樺ちゃん、お願いするわ」
(なんだよ、こいつら……)
停めてあった黒塗りの高級車に、抱えられて運び込まれたところで、ブン太は意識を手放した。
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