Vampire

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「…………俺も…大事……?」
思わずそう問いかけてしまったのは、ジロー本人にも理解できないほど曖昧な感情のせいだった。
けれど、囁く程度のその声はブン太には届くことがなく。
「ん? 何か言ったか、ジロー?」
「なんでもないっ」
「ふーん―――つっ…!」
顔を上げた瞬間、ブン太が舌打ちに似た声を口の中でかみ殺したのがわかった。
陶器のするどく尖った部分を指がかすめたらしい。
細かい破片によって傷ついた人差し指から血が滲みだす。その鉄を含んだ匂いが空気の流れに乗ってジローの鼻をさした。
鮮やかな赤い球が崩れて指の隙間を流れ落ちる。
心臓を締め付けられるような、その甘い匂いにクラっとした。
(あの日と…同じ匂い……甘い―――)
「ジロー……?」
ブン太の戸惑う声が遠くで聞こえていた。
手首を掴んで引き寄せた指に、自らも顔を近づけて、口づけた。
口中に広がる血の味。
反射的に引こうとする腕を逃れられないように固定する。
綺麗に舐めて終えてしまった後も、傷口を舌で撫でるように割ると、ピリッとした痛みがあったのか、ブン太がぎゅっと目を瞑った。
「ジロー、いいからっ……もう離せっ…」
それは懇願にすら聞こえた。
だが、その響きにも耳を貸さず、ジローは舌を這わせることを止めなかった。
「ジロ…っ」
顔を上げると、視線の定まらない瞳に、紅潮したブン太の表情が映る。
潤んだ目は痛みのせいか、羞恥、それとも怒りか。
それでも止まれなかった。
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