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□きみの名前
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「……まあまあじゃね?俺の名前をつけるならもっと複雑なやつやってみせろぃ」
「うーんと……ああ、じゃあね!」
何をやる気なのか、『ブン太』に顔を近づけたジローが、
「『ブン太』、チュー」
「………はあっ!?」
その言葉に反応して、鼻先をジローの頬にすり寄せる犬のブン太。
それは確かにチューといえよう。ついでにペロッと舐められてジローはくすぐったそうに目を細めた。
言われた通りにできたことで、得意そうに褒めて褒めてと尻尾を振っているその姿が妙に腹立たしい。
口でないだけマシだ。マシだけど!
(なんっかムカつく!)
変な芸を仕込むな!とジローを殴るが、なぜ怒られたかわからないジローは頭をさすりながらわけがわからない、といった表情をしている。
「丸井くん?」
「あーもういい。それ貸せ」
ジローの手から家の鍵を奪い取って、一人内側に滑り込んだ。
素早く扉を閉めると、慌てたようにジローがドアにすがりついたのが気配でわかる。
「丸井くん!うわーなんでえ!?そこ俺んち〜!!開けて〜!」
ドンドンと叩かれて振動が伝わった。
「チューで怒ったの!?ごめんなさいー。もうさせないからー」
「いいからおまえはずっとそいつとチューでもなんでもしてやがれっ」
「チューするなら丸井くんとがいいです!だから開けてー!」
外では半泣き状態のジローが懲りずに懇願を続けている。それに『ブン太』のワンワンという鳴き声が加わってまるで合唱のようだった。
「……知るかよ」
勝手に人の名前をつけたことか。『ブン太』の名前をつけた犬にチューなんていう芸を教えたことか。はたまた単なるヤキモチか。
もはや自分でも何を怒っているのかわからなくなって、扉に背中をつけたままその場に座り込んだブン太は、手に持ったまますっかり冷めてしまった肉まんをすべて口の中へと放り込んだ。


Fin
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