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□きみの名前
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ブン太の上から離れた犬はすでにジローの脇に寄ってお座りをしている。
「ふう……助かったぜ…」
「丸井くん、大丈夫?」
「平気だけどよ……」
服についた土を払いながら、疑問を口にした。
「つーかお前さっき……」
止めるべきは犬だったはずだ。
それなのにジローはブン太を止めたのだ。
(いくら動揺してたって……それはありえねえだろ)
ジローが注意した途端犬が退いたことといい、これはもしかして。
自分の想像にブン太は眉を寄せ、ジローをじっと見ると焦ったように視線を逸らされた。
それだけで心にやましいことがあるのだとバレバレだ。
「……ジロー。こいつの名前は?」
「………………ブン太」
呼ばれた名前に『ブン太』が嬉しそうに首を傾げた。
あまりにも予想通りの答えにブン太は顔を引きつらせる。
「てんめ〜!!何勝手に人の名前つけてやがる!?」
「いや、名前ないと不便だC?最初は全然見向きもしてくれなかったんだけど、エサやってるうちに懐いたとことか、食いしん坊なとことか、丸井くんにそっくり〜とか思ってるうちに……」
どんどん声が小さくなっていった。
「そんで?」
「………ごめんなさい」
怒ればいいのか呆れればいいのか。反応のしようがなくてブン太はため息を吐いた。
まだ大人しくエサを待っている『ブン太』を見下ろす。
「……こいつなんか芸できんの?」
「うんっ!」
ここで完璧な芸を見せればブン太も許してくれるかもしれないと思ったのか、ジローは顔を輝かせて頷いた。
「『ブン太』、お手!」
おかわり!伏せ!
ジローの出す命令に、素早く反応して動く犬に、ブン太は感心しながらもやはりちょっと内心は複雑だ。
まるで自分がジローの意のままに操られている感じがして面白くない。
「ね!天才的でしょ?」
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