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□とりあえず違えようのない事実
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疑問を口にしたら、ちらっとブン太を見下ろした幸村が微笑んだ。
「それは、丸井が芥川君からきたメールの内容を毎日嬉しそうに話して」
「だーっ!幸村くん!何言って……!」
慌てて立ち上がり幸村を止めようとするブン太を、ジローは何が起きたかわからずに、呆然と眺めた。
「……え?」
「何でもねーよ!幸村くんも余計なこと言うなよな!」
焦ったように口を塞ごうとするブン太に、幸村は「事実は事実として伝えないと」と、まったく意に介することなく続ける。
「外で昼寝していて、気がついたら夜になっていたこととか」
それはこの間ジローがブン太に送ったメールの報告内容だった。ボールの激突の件も確かに昨日、事細かにメールしていた。
いくら夏でも夜まで外にいたら風邪をひいてしまうよ、とやんわりと忠告してくる幸村に頷きながら、ちらっとブン太を見ると睨み返されてしまう。
けれど普段なら気にするブン太の機嫌とか、そんなことはどうでもよくて。
(う……わー……)
ブン太が普段からジローの存在を思い出してくれているなんて。毎日メールしている甲斐があったというものだ。
すごく感激したけど、どこかがひっかかった。
「……嬉しそうに?」
「そう。嬉しそうに」
「笑いながら?」
「うん。笑いながら」
「………やっぱり幸村くん、ずるい〜」
丸井くんの笑顔を独り占めなんて、やっぱり羨ましすぎる。
ジローは、幸村が暴露した内容の深い意味よりも、ブン太に笑いかけられる、といった目先の事実に意識を奪われて、再びブン太の不興をかったことに気づくことはなかった。
「丸井く〜ん……俺にも笑って〜…!」
がばっと抱きつこうとするジローを足蹴にして、ブン太がこめかみを引き攣らせた。
やれやれ、といった風に幸村が肩を竦める。
「先に行ってるよ、丸井。ゆっくりしてきていいから」
「げ。幸村くん、そりゃねぇよ!」
手を振って立ち去ろうとする幸村が、明らかに面白がっているのがブン太にはわかるため歯噛みをするが、ジローは離れることなく、そんな幸村に手を振り返していたりした。
「幸村くんやっぱりいい人だね〜」
「……あったりまえだろぃ」
「でも負けないC!絶対幸村くんより凄いって思わせてみせるから」
だから待っててね、丸井くん!
しがみついたまま気合を入れるジローの頭がブン太によって叩かれて、ポカっといい音がした。


Fin
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