Vampire

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「丸井くん、遅いなー」
そう呟くのはこれで何度目か。
ジローが起きた時には、隣に寝ていたはずのブン太の姿はそこになかった。
黙って布団の中に忍び込んだから怒って出ていったのかとも一瞬考えたが、まさかそんなこともあるまい。
台所を覗いてみると、ブン太はいなかったが、冷蔵庫も空であったため、何か買いにいったのだろうと予想できた。
なのに、いつまで経ってもブン太は帰ってこない。
「探しに行こうかな……」
でも怒られるかなー。
うろうろと落ち着きなく動き回ったけれど、結局玄関先に蹲って膝を抱える。
「うーん……」
せっかく今日一日はブン太にべったりと張り付いて、別れを惜しもうと思っていたのに。
明るくさよならが言えるように笑顔の練習でもしようかな、と備え付けてある鏡に向かうと、そこに映る影がとても薄く見えてびくっとした。
きっと薬の効果がきれかけてきているのだろう。
吸血鬼は本来鏡には映らない。それはわかりきっていることだけれど、ジローはそんな自分の姿からすいっと視線を逸らした。
(なんで吸血鬼なのかな)
人間だったならずっとブン太の側にいられたかもしれないのに。
そんな埒のあかないことを考えてしまい、暗い思考を追い出すようにぶるぶると頭を振った。
「あれ?」
その時、かりかりと玄関のドアを引っ掻く音がした。
曇りガラスの嵌めてある扉の向こうに、小さな黒っぽい影が見える。
「ネコ?」
その形からそう判断したジローが、ドアを開けた。
同時にピョンとジャンプしたそのネコが、待ちかまえていたようにこちらに向かって飛んでくる。
「えっ? えっ? えっ!?」
反射的に抱くように腕を差し出してしまうと、体勢が安定したネコはジローにしがみつきながら一言「ニャー!」と鳴いた。
「………がっくん?」
つり目がちなネコにそう問いかけると、せわしなく頷きながら、もう一度鳴く。
焦りが混じった声は、今度こそ「ジロー」と翻訳されて聞こえた。
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