宴の文庫

□第2章〜2〜
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宿の外・・・街の広場でシリウス達の目の前に現れたのは、数百の妖人を背後に従えたユリアだった。

「ユリア・・・」

シュウが名を呼ぶとユリアは自嘲気味に笑い言葉を紡ぐ。

「まさか、アンタと戦う事になるなんてね・・・シュウ。」

少しの間 俯き黙り込むユリア・・・だが、フと何かを決心したように顔をあげ、杖を手に身構えた。

「でも、ごめん・・・やらなきゃ街がなくなっちゃうの!だから・・・クロス様、いいえ神子シリウス様・・・貴方をここで殺させていただきます!」

ユリアの声と同時に、背後にいた妖人達がシリウス達に向かって踊り掛かる。
一匹の妖人がシリウスに向かって鈍く光る爪を振り下ろした・・・が
ヒュンッ・・・
そこにシリウスの姿はなく、妖人の爪は空を切った。

「遅いな。」

シリウスは妖人の爪を避け、背後に回りこむと刀を一閃
ズバァァァァァア!!
妖人の肢体を横一文字に切り裂いた。
目の前の妖人が砂と化し崩れていく・・・その時
一筋の雷撃がシリウス目掛け、大気を走る。
それはユリアの放った魔術だった。

「チッ・・・五芒守護壁〈ペンタクル・ディフェンサー〉」

シリウスが手を掲げると五芒星の障壁が雷撃を消滅させた。
バチィィィィイ!!
衝撃音がなり、土煙が舞い上がる。

「・・・集え、紅なる刃、神なる降雨となり天より悪しきものを貫け。」

土煙に紛れ、シリウスは妖人達から距離とり呪を紡ぎだす。
シリウスが空に向かって手を掲げた・・・そして

「降り注げ・・・紅刃雨斬〈ブラディ・レイン〉」

空に描かれた魔法陣から妖人目掛け赤い刃が降り注ぎ、次々と砂塵に変え消滅させていく。

「!・・・ッ・・・」

目の前に群れを作っていた妖人がシリウスによって全て排除され、ユリアは焦りの表情を浮かべた。
ユリアは額を伝う冷や汗を感じながら、かすかに震える手に杖ではなく短刀を握り締め構える。
シリウスは震えながら自分刃を向けるユリアを見据える。

「何故、震える・・・私を殺すのだろう?」

シリウスがゆっくりと紡いだ言葉にユリアはビクリと肩を震わせた。
その反応に気付いても、なおシリウスは言葉を続けた。

「何故、震え怯える・・・その短刀で今までも何人か手にかけたのだろう?」

言葉を発しながらシリウスは一歩一歩ユリアに近づく。

「なら、その刃で刺せばいい、今までと同じように・・・この身体を貫けばいい。」

ユリアの目の前まで脚を進めたシリウスはユリアの手を掴み、自らの首元へ刃を向けさせる。
驚愕するユリアを目の前に表情一つ変えず彼女は淡々と言葉を続ける。

「今なら力を籠めれば一瞬で終わる・・・何を恐れ怯える、お前は何を思う。」

ユリアはその言葉に唇を噛み締め、俯く。
少しの静寂の後、ユリアが小さく言葉を吐き出すように発した。

「・・・ろ・・・たくな、い」

途切れ途切れに発される言葉。

「聞こえねぇ」

「こ・・・ろし・・・たく、な・・・」

地面にユリアのモノであろう涙が染みを作っていく。
シリウスはユリアの手から短刀を奪い地に放り投げた。

「ハッキリ言え。」

「ッ・・・・もう、誰も殺したくない!!」

そう叫ぶように言うと、ユリアは崩れ落ちるように地へ座り込んだ。



泣き崩れた少女の背は震えていて・・・


―続―
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