宴の文庫
□〜序章〜
2ページ/3ページ
とある町の裏街…薄暗い通路の片隅で声にならない悲痛な叫びが上がった。
壁には紅い血飛沫の跡が舞い、人であった『モノ』の四肢は切り裂かれ、
原型を留めていない…
返り血を浴び、切り裂かれた肢体の屑を見下しながら男はニヤリと笑う。
「ヒッ…ハハハハハハハ!」
狂喜という言葉をそのまま表すように男は笑っていた…
そして次なる『エサ』を求めフラリと立ち上がった。
その時
「随分と、血を浴びたな…」
突如、路地裏に響いた声に男はビクリと反応し、そちらへ目を向ける。
日で影になりハッキリとは見えないが、声の主は
肩の下くらいまで伸びている金髪を風になびかせ、紫暗の瞳で男を見据えていた。
「すでに人ではないのだろ…なぁ、化物。」
ポツリと呟いた人の言葉に男は気味悪い笑みを浮かべた…そして
バキッゴキッバキバキッ
むごい音とともに男の身体は色が変色し、獣のような牙と爪が生え、化物へ…
妖人へと変化した。
『エサ』を見つけたとでも思ったのだろうニヤリと笑い『人』に向かって走り出し、鋭い爪をもった腕を振り下ろした…が
ヒュンッ!
ゴトォォォオン―--…
「ギャァァァア!!」
風を切る音とともに、妖人の腕が切り落とされ、そこから夥しい量の血が噴出すように流れ出る。
悲痛な叫びを上げながら悶え苦しむ妖人。
『人』は刀に付着した血を振り払い腰の鞘に収めると、短銃を取り出し、もがいている妖人の額へ向けた。
「ヒッ!…タ、助ケ…。」
紫暗の瞳が妖人を射抜く。
「あれだけ、人の命を弄んどいて、今更 命乞いか?…くだらんな。」
ガウン!
放たれた銃弾は妖人の額を貫き、跡形もなく消し去った。
「闇なるモノには制裁を…」
影が薄れ、日の光に照らし出される『人』の姿…手の甲に描かれたタトゥが、その者を女、そして神子である事を物語っていた。
〈クロス〉
神子の名はシリウス・C・グレイブ