宴の文庫

□第2章〜3〜
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まだ 暗闇の明けぬ街
静寂の中 ユリアがポツリポツリと語りだした。
家族は殺されこの街さえも人質にとられ抗う術なく、命令された事を実行せざるおえなかったこと。
セイレーンという妖人に人を殺すよう命じられた事
そして、神子・シリウスの殺害を命じられたこと。

「…っ…うぅ…ごめんなさい、ごめんなさい。」

泣きながら、ただ謝り続けるユリアに少し離れた場所で佇んでいたシュウが駆け寄る。
嗚咽を漏らすユリアの背をさすりながら、シュウはシリウスに向かって言葉を発した。

「なぁ、シリウス…どうにかしてやれないかな。」

吐き出された言葉にシリウスは

「何故、そう思う…。」

静かに紡ぎだされた言葉、その言葉にシュウはシリウスの紫暗の瞳を真っ直ぐと見つめ素直に答えた。

「このままじゃ、この町もユリアもそのセイレーンって奴に壊されちまう…俺、ほっとけねぇよ。」

そらすことなく、シュウはその瞳をシリウスに向ける。
その、真摯の瞳を見据え、数秒…くるりと向きを変え先ほど投げた短刀を拾上げる。

「シリウス?」

シュウの声に答えず短刀を眺め、シリウスは不意に言葉を発した。

「…ユリア、といったな。セイレーンのところまで案内できるな?」

シリウスの言葉にハッと顔を上げたユリアは頬と瞳を濡らす涙を拭うとゆっくりと立ち上がり、しっかりとシリウスの声に答えた。

「…はい、いけます。」

ユリアはシュウの横を抜け、シリウスから短刀を受け取る

「ユリア…。」

心配そうに見つめるシュウに笑顔を向け、大丈夫というと前を見て歩き出す。
シュウとシリウスは後に続くように歩き出した。


闇のような森を抜け拓けた場所にそれは建っていた。
崩れかけの壁や伸びっぱなしの蔓草が邸を不気味に浮かび上がらせる。
錆び付き きしむ正門を開け中に踏み込む。
広い敷地内に全員が入った…その瞬間

「死ぃぃぃねぇぇえ!!」

大量の妖人がシリウス達に向かって牙を向けた。

「そんな奇襲で、私を殺せるとでも?」

躍りかかってくる妖人を尻目にシリウスは天に向けて掌を掲げた。

「堕ちろ、蒼雷刃・劫雷〈セフィア・エレメント〉。」

ドォォオン!!

轟音を立て、空からいくつもの雷撃の刃が躍りかかってくる妖人達を一瞬にして貫いた。
焼け焦げ 塵と化し、消えていく…
そんな中を、シリウスは何事も無かったかのように邸のドアに向かって無言で歩き出す。
シュウとユリアも急いで後を追った。
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