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「クロームちゃん、今夜予定ありますか?」
「今……夜……?」
*
恋人に"今夜"と言われて、少し(?)いやらしい事を想像するのは私だけじゃないはず。
そう思ったから、ちょっと気合いを入れて来たのに…。
「ハル…こんなところで何する気……?」
PM9:00。
いるところは、……近場の土手。
辺りには誰もいないし、街灯も無い。
え……まさかここで……?
「…………」
……うん、それはない。有り得ない。だってハルだもの。
「クロームちゃん、今日どうしてこんなところに誘ったかわかりますか?」
ニコニコしながら聞いてくるハル。
「……わからない……」
「じゃあ、今日が何の日かわかりますか?」
「…………」
何の日…?
ハルの誕生日でも、私の誕生日でもないことは確か。
記念日でもないはずだし……。
「ごめん、わからない……」
「じゃあ……ハルの顔は見えてますか?」
「え……」
何なんだろう、この質問攻めは。
しかも最後のものに至っては理解に苦しむ。
さっきからお互いに目を見合って話をしているというのに……。
「よく…見えてるけど……」
「街灯が無いのに?」
「それはだって……」
私は頭上に輝く月を見上げた。
あ、今日は満月だ……。
「ピンポーンです!今日は十五夜なんですよ!」
「そうなの…?知らなかった……」
「きれいですよねー……」
うっとりと満月を見つめるハル。
今日誘ったのは月を見るためだけ、か……ハルらしいと言えばハルらしい。
そういう綺麗な心を持つハルが、私は大好き。
でも、少しだけ残念に思ったのも確か…。
「うん…すごくきれい……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……確かにきれいだ。
でも、満月は毎月見れるものだし、そこまで新鮮さは感じない。
果たしていつまでこうしてるつもりだろうか。
そんな私の不満を感じ取ったかのように、再びハルは問いかけてきた。
「十五夜のお月様と別の月の満月、何が違うかわかりますか?」
これまた私には難しい質問だ。
天文学には詳しくないもの。わかるわけない。
「知らない……太陽や地球の位置がどうとか…?」
「いえ…そういう理論的な事はハルにもわかりません」
「じゃあ…何が違うの……?」
「特別きれいじゃないですか?秋の月って」
人それぞれと言われれば、それまでですけど…と付け足してから、ハルは話を続ける。
「前まではどのお月様もおんなじに見えてたんです。でも、ある年の秋に急に、秋の月がどれほどきれいかがわかったんです」
「…どうして…?」
「……多分、月をちゃんと見たから…です」
「……?」
「秋の月がきれいなのを知らなかったのは、月をちゃんと見てなかったから。ハルはその時初めて、月を心からきれいだと思えたんです」
「…うん……」
私は心の中がざわざわするのを感じて、急に怖くなった。
思わずハルの手をぎゅっと握る。
「クロームちゃんはちゃんとお月様を見てますか?月がきれいだと、本当に思ったことありますか?」
「ない…知らない…」
「ちゃんと、自分の目で、見てあげてくださいね」
「…………」
「たまには、ゆっくりと月を見るのもいいじゃないですか…」
「……うん……」
「……ごめんなさい、何か伝えたいんですけど…」
「…うん…、うん…っ……」
「上手く言えないです…ごめんなさい……」
気付けば私は泣いていた。
ごめんなさいと、ハルも泣いていた。
そんな私達を、月は包み込むように優しく照らす。
色々な想いが心を傷つけて、そこから流れ出た血みたいに、涙が溢れて止まらない。
殺戮も恋愛も人生全て、
こんなつもりじゃなかったのに。
(だけど、それでも、あなたを好きになれて良かったと思うから…)
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秋の月が綺麗すぎるので勢いで書き上げた駄作。
綺麗だねーうふふあははー→さて、ホテル行こうか的な話を書こうとしてたのに…←
こんなつもりじゃなかったのにと思ってるのは実は作者だった(笑)