小説

□WANTED! 前編
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「一級危険生物?ココが?」

トリコはIGO本部に依頼品の納品に来て、運悪くウーメン梅田に捕まり、局長室に引っ張り込まれた。いそいそと自ら紅茶を入れに行った梅田の机の上の見慣れた顔写真が気になり手に取った。
目に飛び込んで来たのは腕利きの美食屋に配られるビンゴブック。
そこに映るのは紛れも無くココの美しい横顔だった。
 一級危険生物とは、捕獲に多大な犠牲を伴う高難易度の生物、もしくは存在自体が他の生物の生存を脅かす生物の事である。
 特に後者は、捕獲して隔離、もしくは即時駆除の必要があると認定された生物と言う事になる。
 IGOは食の安定供給の為、一級危険生物の認定を行い、その生物の捕獲を試みる。
捕獲方法としては、お抱えの高名な美食屋に依頼するか、もしくはビンゴブックを作成し莫大な懸賞金を懸け一匹狼の美食屋達の働きに期待する、の2つに分かれる。
ココのビンゴブックには目の飛び出る様な高額な懸賞金が書かれている。
これは四天王の1人ココの捕獲依頼を容易に引き受ける美食屋がいないと踏んでの事であろう。高額な懸賞金に目が眩んだ馬鹿共の人海戦術に任せると言う腹が見え見えだ。
「あっダメよトリコちゃん!それはまだゲラ刷りで、トップシークレットなのよ!」
梅田は手にしたトレーを慌てて応接テーブルに置き、トリコが手にしているビンゴブックを奪い返そうと手を伸ばす。
トリコは手を上に上げ、その手を避ける。
 空いている方の手で梅田の肩を掴み、逃がさぬ様に、近付き過ぎぬ様に距離を保つ。
「何故ココが第一級危険生物指定を受けるんだ?」
トリコは眼光鋭く梅田を睨みつける。
「そっそれはトップシー・・」
「言えよ」
言い淀む梅田の肩を掴む手に力を込める。肩の骨が軋み嫌な音を立てる。
すると梅田は観念した様に溜息を漏らす。
「・・・分かったわ。トリコちゃんとココちゃんは大親友ですものね。だから特別によ?私は腐っても局長。脅されたからじゃ無いわよ?」
「御託はいいから早く言え」
「トリコちゃんは昔からせっかちさんね〜、おっと失礼」
トリコにギラリと睨まれ肩を竦める。

トリコは視線で梅田に話の先を促しながら、暫く会っていないココの事を思い出す。
元々ココは毒に強い体質で、免疫抗体を作る為に大量の毒物を摂取した副作用で、自ら体内で毒を精製する毒人間となってしまったのは修行時代の話だ。
だが、それを制御する事を覚え、強力な武器として美食屋の四天王にまで上り詰めたのだ。
なのに何故今更第一級危険生物に指定され様としているのか・・・

梅田の話はこうだ。
毒人間となったココは、その体調と体質の管理の為、IGOの研究室で定期的に検診を受けさせられていた。
ココの身体が暴走して有害な毒物が流出するのを未然に防ぐ為と言うのが表向きの理由だ。
だが医療研究チームがココの精製する抗体に目をつけ研究対象にしているのは公然の秘密だった。
 ココの精製する毒は、最初は食材を一時的に麻痺させる程度の神経毒が主で、狩りに使用すると便利な程度で特に大きな問題は無かった。
 だが修業を終えプロの美食屋として活動し始めてから、狩りに必要な新たな毒に対する抗体を精製する過程でどんどんココオリジナルの毒物の毒性が強くなって行った。そして、遂に先週の検診で即効性の致死性猛毒が検出されてしまったのだ。
 こうなるとIGOの防衛担当が生物兵器利用の可能性を、公安担当が安全面の不安を訴え、ココの即時隔離を主張したのだ。
 そしてココは身の危険を察知して警備兵を眠らせ逃走した、と言う事実が最悪の事態を引き起こした。
国連よりも遙かに強大な力を持つIGOの決定に反旗を翻した危険人物と見なされ、指名手配を懸けられようとしていると言う訳だ。


黙って梅田の話を聞いていたトリコは、ビンゴブックを梅田の目の前に突きつける。
「ゲラ刷りっつー事は、まだ手配前って事だよな?」
「ええ、そうよ。だってココちゃんもトリコちゃんと同じでIGO秘蔵っ子ですもの、私としては出来るだけ穏便に済ませたくてね。でも此処も穏健派ばかりでは無いから困るわ」
梅田は頬に手を当て科を作りながら溜息を吐く。
トリコは、ホッと胸を撫で下ろしながら、口角を上げて不敵にニヤリと笑う。
ビンゴブックを大切に懐に仕舞い込むと、梅田に人差し指を突きつける。
「俺と取引しようぜ」
「取引?」
「ビンゴブックじゃなく俺に依頼しろ。俺が責任を持ってココを捕獲する」
「トリコちゃん・・」
「それで、ココが致死性の猛毒をちゃんと制御できるのか確かめて来る。制御出来るなら隔離なんかさせねえ」
「でも、それじゃあ上が!」
「今後、四天王のトリコが全責任を持ってココを監視する。・・では不満か?」
トリコは梅田を睨み付け軽く『威嚇』する。
梅田はそれを恐れる風でも無く、ただ深い溜息を吐く。
「・・トリコちゃん」
「何なら俺が直接会長(オヤジ)と話を付ける」
「・・本気なのね。分かったわ。
私も責任を持ってうるさい連中を押えましょう」
梅田が苦笑混じりに頷く。
「サンキュー梅田局長!恩に着るぜ!」
トリコは男前なウィンクに投げキッスの大サービスで礼を言う。
「もう、トリコちゃんたら男前なんだから!」
赤くなった両頬に手を当て身悶えする梅田の姿は、幸いな事に風の様に立ち去ったトリコの目には入らなかった・・・

後編に続く

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