小説

□取り扱い注意
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最近ココが不機嫌だ。
遊びに来る度に、不機嫌になって帰って行く。トリコは、その理由に何となく気付いてはいるが、それどころでは無かった。
今は毎日慣れない子育てに奮闘中だからだ。
「テリー!こらっ、じゃれるのは飯食ってからにしろ」
赤ん坊だが、普通の犬なんかに比べると遥かに大きなバトルウルフのベビーの激しいじゃれつきに、トリコは苦笑しながら白く美しい毛皮を撫で回す。
生まれ落ちたその日しか、母と過ごさず生涯を一匹で生きて行くバトルウルフ。
 だがテリーは、その宝物の様な『愛を語る日』を無惨に奪われた。生き別れるのと死に別れるのでは天と地程も違いがある 。その為かテリーはトリコにとても懐いてしまった。トリコにだけ心を許し、トリコに寄り添い甘える。
「お前普通の犬みたいだぞ。誇り高い王者の末裔だって解ってるか?」
トリコがテリーの目を見つめて語りかけると、クゥと一鳴きしてトリコの鼻先をペロリと舐めた。
「解ってねえだろうな〜。まあいいさ。とにかく腹一杯食って早く母ちゃんみたいに、でっかくなりな」
テリーは自分より大きな赤毛豚に食いついた。
トリコはその旺盛な食欲に目を細める。
そして、この隙に自分も遊びに来て待っているココと食事をしようと家に入る。

「うっ?!」
家の中に一歩踏み込んだ瞬間、トリコの身体を嫌な予感が走り抜ける。正確には嫌な匂い。
もっと正確には、本来はトリコの大好物だが、今ここで漂うハズの無い匂いだ。
「酒臭っ!?何でだ?」
トリコは慌てて匂いのする部屋へ向かう。どうやら、客室からの様だ。
「ココ?!」
部屋に飛び込むと床に転がる酒瓶に蹴つまずきそうになる。
(・・俺のテキーラ?嘘だろ?)
トリコが瓶を拾い上げようと屈んだ瞬間・・
頭上を何かが掠め、後ろの壁にぶつかり割れる落ちる音が響いた。
振り返ると、粉々に砕けたウォッカの瓶が床に落ちている。
トリコが蒼褪めて正面を向き直すと、満面の笑顔のココがベッドに座っていた。
トリコは背中に冷や汗が流れるのを感じる。
「・・ココ?これ当ったら多分痛てえよ?」
「トリコなら大丈夫だよ。」
ココは笑っているが『何が大丈夫なんだ?』とは、とても聞けないオーラが出ている。
トリコはごくりと音を立てて唾を飲み込む。
(・・・えーっと、これは何バージョンだ?絡み上戸、怒り上戸に笑い上戸・・)
普通そうに見えるが、ココがトリコ愛飲のテキーラやウォッカの強い酒をがぶ飲みして素面な訳がないだろう。
トリコの頭の中を、ココの酒癖の悪さの思い出が駆け巡る。
「遅いよトリコ」
「え?」
「お前が遅いからお腹すいた」
拗ねた口調で言いながらも、ニコニコしているココは至って普通に見える。
「あんまりお腹がすいたから、リビングボードから何本か失敬したよ?」
でも、先程の壁に投げ付けられた瓶の事を考えると、明らかにおかしい。
(・・すきっ腹に酒なんて、酒好きでも無いココがかよ?どう考えてもおかしいだろ)
でもトリコは障らぬ神に祟り無しだろうと、普通に受け流してしまう事にした。
「待たせて悪かったなココ!テリーに飯喰わせてたからさ。あいつじゃれてばっかでよ、中々喰わねえから時間食っちまってさ」
トリコは殊更平静にニカッと笑って見せる。内心の動揺の為かトリコは『テリー』と言う単語にココの瞳が小さく反応したのに気付かない。
「でも腹減ったからってココが酒飲むなんて珍しいよな。すぐ飯にすっから待っ・・」
「もう空腹のピーク越えちゃったよ。夕飯は後でいいからトリコもこっち来て一緒に飲も?」
トリコの言葉を途中で遮り、ココは笑いながら手招きする。
酔っ払ってるせいか壮絶に色っぽい上目使いで微笑むココ。
トリコの心臓が大きな音を立てる。ときめき半分、嫌な予感半分。
トリコは怖々ココに近付き手を差し延べる。
「ココ、飲みたいなら後で付き合うから先に飯にしようぜ。すきっ腹で飲むのは身体に悪い」
トリコが立ち上がらせようと延ばした手をココが両手で掴む。
「ん?オワッ!!」
思いっきり引っ張られたトリコは前屈みだった所為もあり、バランスを崩して簡単にベットの上に倒れ込む。
ココは素早い動きで、身体を反転させて起き上がろうとしたトリコに馬乗りになる。
予想外の展開に呆然とするトリコを見下ろしてココは妖艶な笑みを浮かべる。
「・・ココ?」
「トリコの所為でお腹がペコペコだから責任取ってよ」
「責任って・・だから飯作・んむっ?ん〜〜っ!??」
訳が分からず問い掛けたトリコの唇をココのそれが塞ぐ。
いつも受け身なココらしくない激しいキスにトリコは驚き目を丸くする。
「ちょっ!お前どうしたんだ? んっ!こら!んんっ!待、てったら」
角度を変えては何度も重ねられる口付けの合間にトリコは制止の言葉を発する。
トリコは容易すく力付くで引きはがせると思ったのに、何故か手に力が入らない。
唇を離してトリコを見下ろすココが妖しい笑みを浮かべる。
「・・ココお前、何か一服盛ったな?」
感覚はあるが手足の動きがとても鈍い。軽い神経毒の類だろう が、ココのオリジナルなら解毒は彼にしか出来ない。
愛しい恋人から口付けに一服盛られてトリコは溜め息を付く。
「どうしたんだココ?何がしたいんだ?」
トリコの問い掛けにココは口付け合間に言葉を紡ぐ。
「お腹がすいたんだ・・」
「・・?」
「お前は最近ずっと、ずっとボクをほったらかしにしてテリーに夢中・・」
「ココ・・」
(夢中と言うか、まだ赤ん坊だから手がかかる訳で・・)
「四六時中べったりで寝る時すらお前と二人きりになれない」(一緒に寝ないと寂しがって鳴くから仕方ないだろ)
トリコはココを刺激しない様に心の中で反論する。
「・・トリコ不足でボクは飢え死にしそうだ」
「うっ!」
トリコの腹に跨がっているココが後ろ手にトリコの急所をズボン越しに掴んだ。急な刺激にトリコの腹筋が動く。
「だから今夜はお腹いっぱいトリコをちょうだい?」
トリコは妖艶に微笑むココを見上げる。ニヤリと口角を上げて笑いながら呟く。
「いいぜ。お前の望むままに」
嬉しそうに笑いながら唇を重ねてくるココに応えながら・・・
(しかしテリーにヤキモチを妬いてヤケ酒なんて、可愛い過ぎるんじゃねーの?)
ヤキモチ妬きの可愛い恋人が愛しくて、今夜はテリーに頑張って独り寝して貰おうと心に決め、深く甘い口付けを交わした。

おしまいorつづく?

3333打キリ番の裕未様のキリリク作品です。
永らくお待たせしてすみませんでした。あまりに永くかかったので
取りあえず寸止めでアップです!
お気に召して頂けると良いのですが、寸止め以降も裏バージョンでアップしようとは思っています!

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