小説

□嘘つきな唇
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「やっ・・」
「嫌じゃないだろ?」
「やだっ、もぉ、おかしく・・なる。やめ・・」
ココは、自分の弱いとこばかりを的確に触れてくるトリコの手を止めようとするが、力の入らない手ではトリコの力に敵う訳もなくただ翻弄されている。
「なれよ。おかしくなってもいいぜ。どうせ、俺しか見ないんだから」
「だから、やなんだっ!あぁっ!見・・るな」
やだね、勿体ねー。ココ可愛い。もっと見ていたい」
「バカトリコ・・もやだって言ってるだろ・・んんっ」
トリコは愛撫の手をぴたりと止める。
目を固くつむっていたココは、暫くしてもそれが再開されない事を訝しく思い恐る恐る目を開ける。そこには悲しそうなトリコの顔が自分を見下ろしていた。
「あんまり『いや』しか言われないと俺だって傷付くんだよな」
トリコの真剣な声音にココはぎょっとする。
「ト、トリコ?」
「本当にココが嫌ならもう二度としねー。ココに嫌われてまでしなくていい」
寂しそうな笑顔で額にそっと口付けると、身体を離してベッドから降りようとするトリコ。
ココは慌てて身を起こしその背中にしがみつく。
「う、嘘だよ!トリコ、嫌じゃないよ。お前に触られてボクが嫌なわけないだろ?」
背中越しに必死に訴える。トリコは胸筋の辺りに回されたココの手に自分の手をそっと重ねる。
「・・本当か?」
「本当だよ!・・嫌じゃないけどただ・・」
「ただ?」
「ボクは男なのに、トリコとすると、こんなに・・・こんなに気持ちよくて、乱れるのが恥ずかしいから・・ それに、みっともなくて、お前に呆れられるのが・・嫌なんだ」
トリコの広い背中に頬をくっつけて消えいるような小さい声で呟くココ。
暫くの沈黙。
呆れられたのかと、泣きたくなるココ。思わず背に擦り寄った頬にトリコの背中が小刻みに震えているのが伝わる。
「トリコ?えっ?うわっ!」
しがみついていた腕を引きはがされたかと思ったら、あっと言う間にベッドに押し倒され、元の体勢に逆戻りしていた。ココの身体を組み敷いてトリコは口角を上げニヤニヤと笑う。ココはあまりの展開少し呆然として、トリコを見上げる。
目の前にはトリコの悪戯が成功した時のような笑顔。
(やられた!)
と悟った時には後の祭りだった。
「ボクを嵌めたなトリコ!?」
「ん?ココにハメルのはこれからだろ?」
下品な言葉遊びにココの顔が真っ赤に染まる。二の句が継げない。そんなココの唇に音を立てて触れるだけのキスをする。
「ココが本気で嫌がってない事なんて解ってるつーの。ただ、あんまり可愛くない事ばっかり言うから、ちょと意地悪しただけだ」
ごめんな?と悪戯っぽいウィンクをするトリコにココは、怒りと込み上げる羞恥心にワナワナと震える。
「〜バカトリコ!お前なんか嫌いだ!」
「そんなに怒るなよ」
「怒るさ!ボクにあんなあんな恥ずかしい事言わせて!」
「可愛いかったぞ」
「バカ!お前なんか!」
大嫌いだと、叫ぶ前にその唇を唇で塞がれる。暴れて抵抗しようにも上からのしかかる倍以上のウェイトに敵うはずもなく、呼吸まで奪い尽くされそうな口付けはココの抵抗が止むまで続けられた。 おとなしくなったココの唇に今度は触れるか触れないかのキスを落としながら、優しく呟く。
「嘘でも『大嫌い』は聞きたくねえ。頼むからそれだけは本当に止めてくれな?」
ココはもう騙されるもんかと思いつつも、どうにもトリコのこの悲しそうな顔に弱いらしい自分に溜め息を付く。
「・・・その代わり好きも言わないからな」
精一杯の仕返しが素直じゃないココらしくてトリコは、思わず笑ってしまう。
「いいさ、いつかその嘘つきな口から言わす!それまでは素直な身体に聞くとするか」
「バカッ!」
再開された不穏なトリコの手の動きに、慌てながらも、その夜のココは一度も『嫌だ』と言わなかったとか・・・

おしまい♪

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