小説

□好物は・・・
1ページ/1ページ

トリコが豪快にうちの食材を食べ尽くしてくれたので、当然に出来た大量の洗い物をトリコと二人で片付けている。
「ココさん、トリコさん洗い物ぐらい僕がやりますよ。四天王のお二人にそんなっ」
と気をつかう小松君に・・
「お気遣いなく小松君。ほとんどトリコ一人で平らげたんだ。皿洗いぐらいしてもらわないとね。働かざるもの食うべからずだよ。でも一人でやらせると我が家の皿が全滅しかねないから、僕が付き添うだけだよ」
 と言うもっともらしい理由を付けて、久しぶりに会ったトリコと二人きりになる事に成功した。
「あ〜面倒臭え。食べた直後に片付けするのってダリィよな」
ぶつぶつ言いながらも、手際よく洗い物を片付けるトリコ。僕は洗い上がった皿を拭きながらトリコに話し掛ける。
「トリコ、次の獲物は何故フグ鯨なんだい?」
「ん〜?まだ喰った事ねえし、チャンスは10年に一度じゃん」
「・・それだけかい?」
本来ならそれは十分な理由だけれど、僕は敢えて尋ねる。
「それだけって、お前」
何言ってんだよ、って顔で僕を見たトリコの目をじっと見つめる。最初に目を逸らしたのはトリコ。あ〜あっと呟きながら手に付いた泡を洗い流す。服で乱暴に水気を拭うと、僕の方を向いて、僕の両頬をそっと包みこんだ。額の触れ合う距離で僕の目を覗き込む。
「やっぱお前の目には全てお見通しか〜」
トリコは口角を上げてニヤリと笑う。僕の好きな顔の一つだ。
「まず久しぶりにお前に会いたくなって、ココと言えば毒、毒と言えばフグ、ああフグ鯨の季節だな〜、10年に一度のチャンスか〜、それならココだって手伝ってくれっかな。一石二鳥でラッキーじゃん!て思った」
「・・二兎を追う者はって諺もあるぞ?」
馬鹿正直なトリコに、素直じゃない僕は意地悪に言ってみる。
トリコは、一瞬おっ?って顔をしたが、すぐに豪快に笑って、僕を抱きしめた。
「ちょっ!トリ・・」
「俺様の辞書にはそんな諺ねえな。欲しい物は全て手に入れる。俺が思い立った
ら吉日なんだぜ? だから、こうやってココに会えた」
「何年もほったらかしで、よくも言う」
 僕はトリコの腕の中で恨み言を呟く。トリコは僕を抱く腕に力を込める。
「そりゃお互い様だろ?お前が勝手に隠居を決め込むから、俺だって拗ねるって。そうだろ相棒?」
「トリコ・・」
「まっ、お前の気持ちも分かるから、暫くそっとしといたけど、流石に限界だからな。この口実、今を逃したらなんと後10年使えねえんだぜ?」
トリコは悪戯っぽいウィンクをしながら、僕の鼻先に音を立ててキスをした。
ああ、やっぱりトリコには敵わない。僕が勝手に美食屋をやめて、勝手にお前の前から姿を消したのに、逢いたくて、でも自分からは動けなくて、だだ待っていただけの僕。そんな僕にもっともらしい口実を作って会いに来てくれたトリコ。
僕は嬉しくて泣きそうだったが、泣ける程素直じゃないから、感謝の気持ちをキスに込める。
 触れるだけのキスだったのに、トリコは驚いたように目をパチクリしている。
ああそうか、僕からしたのは初めてかも?昔からいつも仕掛けて来るのはトリコからで・・。
「久しぶりのキスが鼻先だなんて、物足りないだろ?」
僕はトリコを挑発するように悪戯っぽく微笑んだ。
「・・お前、そんなに煽って後悔するなよ?」
トリコの腕に力が篭る。痛いぞ、この怪力め。お返しとばかりに口付けようとするトリコの唇を指先で塞ぐ。
「フグ鯨が先だろ?今日はお連れさんもいるんだから」
「・・・ちっ、お前に追い返されない為の保険が仇になったか。まあいいさ、ココは俺と逆で好物は後で喰うタイプだからな。今回はお前流に付き合ってやるよ」
トリコは男前なウィンクをしながら、でも味見にもう一回キスくらいさせろと言うので、異存のないと僕は、幸せな気持ちで目を閉じた。

おしまい♪

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ