小説

□占い師ココの恋占い
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「トリコ今なんて言った?」
ココは驚きのあまり、もう少しでお気に入りのティーカップを落とすところだった。
テーブルの向かいに座るトリコは
、無邪気な顔でココお手製のスコーンをぱくつきながら繰り返す。
「だから〜ココは有名な占い師なんだろ?折角だから俺を占ってくれよ 」
(・・どう言うつもりだろうか?)
ココは、内心で首を傾げる。
トリコの性格は解っているつもりだった。思い立ったら吉日それ以外は皆凶日と言い切る様な男だ。
占いなんて信じるタイプではないはずだ。
「なっ、いいだろ?ココ、何なら見料ちゃんと払うぜ?お前プロだもんな」
ココはぐっと言葉に詰まる。
ニッコリ笑われてそんな事まで言われたら、断るにはプロ意識が邪魔をする。
本当は、冷静な気持ちで見れない相手を占うのは難しくて非常に困るのだが・・・
「・・・仕方ないな。トリコ僕は高いぞ?」
「ん〜?それじゃあ、お前の好きな食材何でも捕獲して来てやるって事でいいか?」
 トリコは口角を上げてニッと笑う。
(ああ〜相変わらず男前だな・・
って動揺するな僕!)
トリコの男前な笑顔が大好きなココは、表情を変えず内心のドキドキを隠し努めて冷静な声を出す。
「何でもだなんて、随分はりこむなトリコ。そんなにまでして何を占って欲しいんだい?」
これは占い師の役得だ。トリコが何を知りたいのか興味がないと言えば嘘になる。
「そりゃあ、占いと言えば決まってんじゃん!」
 トリコは悪戯っぽくウィンクする。
「そうだな、仕事関係か?次の食材の捕獲についてとか・・」
ココは、真剣に今までの経験からアレコレ推測してみる。トリコは顔の前で違う違うと手を振る。
「バッカだな〜ココ〜。仕事の事なんか占いに頼んねえよ。占いって言えば古今東西定番はあれだろ?」
「あれって・・?」
ニヤニヤ笑うトリコに嫌な予感を感じつつ先を促す。
「占いと言えばやっぱり恋占いだろ?」
ココは頭をハンマーで殴られた気がした!
(こ、こ、恋?この食欲の申し子が恋だって?)
ココは激しく動揺していた。四天王一の食いしん坊ちゃんが、恋だなんて。魅力的な食材にうっとりする事はあっても色恋沙汰とは無縁な男だと思っていたのに。
ココは何だか訳の分からない胸の痛みを感じる。
(何だ、この胸の痛みは?変な気分だ。・・)
「ココ?どうした?」
占い師の割にはポーカーフェイスの上手くないココは、本人自覚のないまま血の気の引いた顔をしていたので、トリコは心配そうに顔を近付ける。 ココはすっかり考え込んでいたため急に近付いたトリコに驚いてイスごと後ずさる。
「い、いや。何でもないよ。ちょっと意外で驚いただけだ。お前でも色恋沙汰に興味があるんだなって。食い気ばかりじゃなくて安心したよ」
ココは内心の動揺を隠して体制を立て直す。何か言いたげなトリコを目で制して
話を先に進める。
「で、どんな内容の占いをお望みなんだい?まあ僕の大勢の女性客は、よく運命の人にいつ会えるだとか、何処に居るのかとか聞くけど、そんな感じかい?」
「いや、会った事も無くて、何処にいるかも分からない相手なんか興味ねえし」
トリコは、きちんと椅子に座り直して、ぶんぶんと首を横に振る。
「ズバリ俺の惚れた相手が俺の事をどう思っているかを知りたい」
敢えて避けて尋ねていた依頼内容にココはまたまた動揺する。色恋に興味が出て来た所かこの食いしん坊ちゃんはもう既に恋に落ちた相手までいるらしい。想定外だった。
ココは呆然とした。トリコはまだまだ恋愛関係には興味がないのだろうと考えて、無意識に自分の気持ちにはっきりと名前を付ける事を後回しにしていた。先程の訳の分からない胸の痛みの理由も判明してしまった。
 これはもう間違いない。
(僕はトリコが好きなんだ。友達としてじゃなく恋愛感情として。きっと随分前から)
ココは、呆然としてから、次に泣きたくなった。
自分の気持ちに気付いたのが、失恋決定の後にだなんて笑えやしない。トリコが似合わない恋占いまでして想い人の気持ちを知りたいなんて知りたくなかった。そしてそれに協力しなくてはならない自分が可哀相だ。
・・・でも、一度受けた仕事を断る訳にはいかない。何故ならプロだから。と、ココは気丈に振る舞う。
「依頼はわかった。今から占う」
「大丈夫かココ?何だか顔色悪いぜ」
「占いに真剣なだけだ。気にするな」
心配そうなトリコの顔をじっと見つめる。幸せなオーラが見えた。
「・・・・・」
「・・・どうだ?」
ココは深い溜め息を付いた。
「・・・もしかして悪い結果なのか?」
恐いもの知らずなトリコが恐る恐ると言う体で尋ねる様に、本気の度合いが知れる。ココは力無く首を横に振る。嘘の結果を告げられる程悪人にはなれない自分にもう一つ溜め息をついから、重い口を開く。
「・・逆だよ。安心しろトリコ。お前の想い人はきっとお前を好きだよ。近い内に上手くいくと出てるぞ」
答えを聞いたトリコの顔にみるみる内に喜色が溢れだす。満面の笑顔。ココの一番大好きな顔だ。飛び切りの獲物をゲットした時のトリコの顔。
「そうか近い内か!近いっていますぐでも大丈夫か、ココ?」
「えっ、そうだな・・・不思議な事に今すぐっぽく出てるんだが、お前今すぐ逢いに行く気か?もしかしてその娘はこの近くに住んでるのか?」
ココはトリコの浮かれた態度に自分の失恋にそんなに追い打ちをかけなくてもいいじゃないかと、恨み言をいいたくなる。
ココが俯いてもう一度溜め息を付こうとした瞬間、唇を何かに塞がれた。
 驚いて目を見開いたココは、トリコと目が合い、唇を塞いでいるのがトリコの唇である事を理解した。トリコはテーブル越しに身を乗り出しココの頬に両手を添え優しく口付けている。ココは驚きのあまり呆然としてされるがままだった。が、口内にトリコの舌が侵入して来ては流石に意識も覚醒して、怒りのあまりその舌に噛み付いてやる。
「痛て〜!お前美食屋の舌に噛み付くなんて酷いぞ!」
流石に唇を離して、文句を垂れるトリコを睨み付ける。
「酷いのはどっちだ!人の気も知らないで・・。惚れた相手だのほざいた口で何してくれてるんだお前は!」
ココは真っ赤になってトリコを怒鳴るりつける!
「何ってキス」
トリコは悪びれずにさらりと答える。あまりの態度にココの怒りは更にヒートアップして、もう今にも毒化しそうになっていた。まさに間一髪の瞬間・・・
「だってお前の占いは当たるんだろ?」
嬉しそうに笑うトリコに毒気を抜かれて、ココは溜め息まじりに尋ねる。
「・・それとさっきのキスになんの関係が?」
トリコはやれやれと言う体で肩を竦める。二人の間にあるテーブルを片手でちょいと押し退けると歩み寄りながらココの手を取り抱き寄せる。
「トっトリコ!?」
慌ててもがくココを腕の中に閉じこめて、その耳元に囁く。
「俺の惚れた相手は、俺の事好きなんだろ?だったらキスしたっていいだろ」
「・・・惚れた相手って・・ひょっとして・・」
ココはまさかまさかまさかと思いながら、トリコの顔を見上げる。
「お前自分の恋占いはしないのか?」
トリコは悪戯っぽく笑ってココの額に口づける。
「そしたら、お前の好きな相手
はお前にベタ惚れだって出てるはずだぜ?」
目の前に、あの大好きな笑顔。
(・・ああ、この笑顔が自分の物になるなんて、なんて幸せなんだろう)
ココは嬉し泣きの涙を隠す様にトリコの胸に顔を埋め、その広い背中に腕を回し力いっぱい抱きしめ返した。

おしまい♪

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