お宝

□ボクの全てはキミのもの
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出張占いの帰り道、キッスに周り道してもらうと、やはり見慣れた青い髪が見えた。

トリコはドリルバイソンと対峙している。そのドリルバイソンがまた、規格外だ。その大きさとスピードに、ココは思わず他の猛獣じゃないかと疑ってしまったくらいだ。
自由自在に動き、スクリューしながら突き刺さるタテガミを避けて、トリコはココたちを振り仰いだ。まだかなり遠いのに匂いに気付いたようだ。

狩りの最中だというのに、ニィッと口角をあげて、ついでに片手もあげたトリコは「よぉ、ココ。仕事帰りか?」とパクパク口を動かした。

自分も唇の端を上げて応えて見せたココは、キッスに頼んで邪魔にならない場所へ降ろしてもらった。
手近な岩にもたれて、久しぶりにトリコの狩りを見物する。
手伝う気は毛頭ない。
手を焼いてはいるが、本来なら威嚇だけで済む獲物だ。
威嚇せずに捕獲しようとしているのだから、この狩りは余程楽しいのだ。

なるほど、バイソンは非常に良い動きをした。
目を細め、嬉々とした様子でタテガミのドリルを避けながら、時々拳を繰り出すトリコは本当にイイ男だ。
いきいきと魂の篭った瞳は獲物だけを見つめ、時々ピュイと口笛を吹いてバイソンの動きを賞賛する。
滑らかに、時に鋭く動く筋肉、軽い足捌き。

その雄々しく美しい狩りの様子をココは惚れ惚れと見つめていた。
やはり、トリコのセンスは素晴らしい。
闘うたびに進化するトリコがどこまでいくのか、この目で見届けずにはいられない。
ココはつくづくそう思ったのだった。



いつの間にか周りには、おこぼれに預かろうと、さまざまな猛獣が集っていた。

やれやれ、とココは溜息をついた。
不粋な獣たち。
あれほどトリコが楽しんでいるのだから放っておいてやればいいものを。


岩にもたれかかっていた背を正して、ココは軽く腕を振り、首を回した。
トリコ一人でも十分に相手にできる量だったが、まぁ、自分が手出しをしても怒られることはないだろう。
できるなら、トリコにはもう少しドリルバイソンを愉しませてやりたい。


トリコの狩りを見守りながら腕を振るっていたココだったが、獲物が吐いた消化液を避けて振り返ると、もうドリルバイソンは地に伏していた。


しまった。肝心な部分を見逃した!

悔しく思いながらも、自身に襲い掛かる最後の2頭に拳を入れ、トリコに向き直った。

「よぅ、ココ!
お疲れさん!毒を使うまでもないってトコか?」
巨大なドリルバイソンを頭上に持ち上げたトリコが笑って立っている。

「余計な真似して悪かったな。
お前の狩りを見ていたら、つい身体が動いてね。」

「いやー!相変わらず綺麗だな、ココの狩りは!」

「ボクは肝心なとこを見逃したよ。」
心底残念そうにため息をつくココを見て、トリコがニヤニヤと笑う。

「そりゃ、残念!ココが見てるから張り切ったのにな。」
「もうちょっと粘ってくれたら見れたのに!」
「わりぃ、わりぃ、バイソンのドリルが掠っちまったからな。」

トリコは少し肩を動かして、破れた服を見せた。
パックリと破れた布の間には、一筋の赤い線が見えていた。
ドリルバイソンのタテガミの先には毒線がある。

「お前、ドリルバイソンの抗体持ってるのか?」
「いや?持ってねぇ。
実はちょっと痺れてきた(笑)
かすり傷でもやっぱ毒が入るんだな。」

「……お前……。
……全く、暢気なことだな。」

つかつかとトリコに歩み寄ったココは傷口に右手を置き、左手でトリコの頬に触れた。
バイソンを支えて身動きが取れないトリコが「ん?」と首を傾げると、その唇にココの唇が重なった。
そのまま深く口づけたココの舌をトリコが十分に味わった頃。
ココが唇を離した。
「血清を入れたよ。幸い、肌を傷つけた程度だから、少ししたら痺れも取れるはずだ。」

「サンキュー!ココ。大好きだ、お前のこーゆートコ!」
「やめろ。気持ち悪い。いい狩りを見せてもらった礼だよ。ま、肝心なところは見損ねたけど。」

「……惚れ直しただろ?」
ニヤニヤ笑うトリコにココは憮然とした。
「ばーか。誰が!」
そう言って、くるりと向きを変えたココはスタスタと歩き出した。

「ちょ、ココ!
こいつ結構重いんだよ。
もうちょっと ゆっくり…!」

トリコが慌てて追い掛けはじめると、ぴたりと足を止めたココが首だけ動かしてトリコを振り返った。

「……惚れ直すも何も、ボクはもう惚れ直したりできないくらい お前に夢中だよ!」

それだけ言ったココは、再び前を向くと、先程よりももっと速度を上げて歩き出した。

「ちょ、ココ!速え!速えって!」

慌てたようにココを呼びながら足を速めたトリコの顔は、それはもう目も当てられない位だらし無く鼻の下がのびきっていた。

真っ赤な顔をしたココが「なんだ、その顔は!?」と怒ってみせても、トリコの顔はなかなか元には戻らなかったという。




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