お宝

□ラブラブ☆クッキング
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♪チャラララッ チャチャチャッ
チャラララッ チャチャチャッ…

聞き覚えのある料理番組のオープニングソングを口ずさみながらトリコがボクん家のキッチンに立っている。
軽快な3分クッキングのリズムにボクの顔はますます引き攣り、小松くんへの呪詛が頭を渦巻く。

もしかして、ボクが初対面で失礼なことを言ったのを根に持ってるんだろうか。
いやいや、きっと小松くんはトリコの真の料理の腕を知らないんだ…あの天然め!
いったい…いったい何を考えてるんだ!!
トリコにレシピを授けるなんて!!!!


急にボクん家へ来たトリコは、満面の笑みを浮かべて「台所を貸してくれ」と言った。
耳が拒否反応を起こしたその言葉が脳に届くまで、僅かな時間を要した。
固まるボクに構わず、ずかずかキッチンへ入ったトリコは、抜群の嗅覚で秘蔵のネオトマトを見つけだした。
…ボクの馬鹿!
何故取っておいたんだ!?
昨日一度に食べ切れば良かったのに!!

失策を悔やんでも遅い。
「あった、あった♪」
嬉しそうにネオトマトを手に振り返ったトリコは、邪気のない笑顔で言った。
「小松にトマト料理のレシピ教えてもらったんだ!
きっとネオトマトで作るとさらに旨いぞ☆」

「旨いぞ☆」
「旨いぞ☆」
「旨いぞ☆」

トリコの台詞がご丁寧にエコーまでかけて脳に響き渡った。

トリコは決して料理が下手な訳ではない。
特にサバイバル料理などは的確な血抜き作業と釜作り、火起こしで誰よりも美味く獲物を仕上げる。
ただ、作業行程が増えるにつれて首を傾げることになるのだ。
原因もわかっている。
豪快なその性格と、いつも忘れない冒険心・美食への探究精神だ。
材料を揃えて切ったり、部位毎に調理するなど思いもしない、大胆さ。
そして、その美食屋魂はついつい「あれを入れてみたらどうだろう」「完全に火を通すより手前で加熱をやめてみたらどうだろう」と、やってしまうのだ。

ボクのグルメ細胞はトリコの手料理を食べる度に、確実に衰退していると思う。
じゃあトリコは、というと「マズイ」「微妙」でなく「新しい味」として味覚のタンスに新たな引き出しを作っているようなのだ。
だから、グルメ細胞に影響することもない。
なんたるポジティヴ。心底羨ましい。

そういえば、さすがのトリコもしょげたことがあったっけ。
あの時はスウィーツハウスが爆発したのだ。
バレンタイン前日、ボクのためにクラシックスタイルのショコラケーキを作ってくれていた時の惨事。
「せっかく作ってたココのケーキが台なしになった」と半ベソをかくトリコを慰めながら、いったい何を食べさせられようとしていたのか、とか、お菓子でできた家だから脆いんだ、とか、それでもケーキ焼いて家全壊ってどういうことだ、とか色んな台詞が頭をよぎった。
無信教のボクだったが、この時ばかりは食べる前にケーキを爆発させてくださった神様に心から感謝したものだ。
以来、二代目スウィーツハウスを見るたびにしょっぱい気持ちになる。


♪チャッチャラ チャラララ ラッタッタ〜
チャッチャラ チャラララ ラッタッタ〜
鼻歌が「きょうの料理」に変わり、行程は下拵えから煮込みに入ったようだ。

「手伝う」と食い下がったボクを「いいから いいから」と椅子に座らせて、トリコは上機嫌で鍋を掻き混ぜている。

「何ができるかお楽しみ♪」って、こんなに強力な呪い文句だったのか。
ボクは嫌な汗が止まらない。

しかし、ボクの緊張とは裏腹に台所からはとてもいい匂いが流れてくる。
その匂いはいやがおうでもボクの警戒心を高めてくれる。
今まで何度、この匂いに期待してしまったことか。
いっそ匂いも悪けりゃ望みを捨てられるのに。



ああ、でも今回は大丈夫かもしれない。
今日のベーススープはホテルグルメのを分けてもらった、とトリコは言った。
「小松くん直伝レシピを味わってみたいから」とアレンジを加えないようにも頼んだ。
ボクができるだけのことはしたのだ。


キッチンに立つトリコの大きな背中を見た。
トリコが手を動かすたびに綺麗な筋肉がシャツの布越しに盛り上がり、美しく動いている。
トリコの電磁波はご機嫌そのもので、ボクへの想いでいっぱいだ。
今、料理しているトリコは本当にボクのことしか考えていないのだ。

仕方ないなぁ、と思う。
ボクに見せているのは背中だけなのに。なのに、こんなに愛を語られちゃ、覚悟を決めるしかない。

「できたぞ!」
振り向いたトリコの瞳に応えるボクの笑顔が若干強張って見えるのは許してもらいたい。

だって、今からボクは愛を試されるのだから。

さてさて、今日のお味はいかなるものか。



(081119)

ちえぷーさん、リクエスト権get&素敵リクエストありがとうございました!!
トリコ好きのちえぷーさん、こんなトリコにしちゃったけど、怒んないでね(ココ)


怒りませんよ〜もうもう大満足ですよ、夕陽さん!ちゅーすら無しでこんなにラブラブなお話書けるなんてすごいです!ありがとうございました!

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