お宝

□ギプス
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「もう、なんで避けないんだよっ!?」
先程から怒り口調のココだが、顔には「罪悪感」の三文字がありありと浮かんでいた。


事件は、ついさっきに起こった。
料理していたココを、トリコが後ろから抱きしめて、耳を舐めた。

いきなりのトリコの振る舞いに、ココは振り返り様、エルボーを繰り出した。
肘は見事に入り、トリコの肋骨はパキンと音をたてた。




そんなこんなで、ココはギプスにする植物の粉を練っていた。
これくらい大丈夫、と主張するトリコを座らせ、練った粉を置いていく。
粉は、置くはしから乾いて固まり出す。

大丈夫、というトリコの言葉は虚勢ではない。
実際二人とも、骨折程度は慣れっこだ。
しかし、次の狩りが間近に迫っているトリコを、少しでも早く回復させたいのだろう。ココは丁寧にトリコの胴を固定した。

今回は怪我の理由が理由なだけにココはトリコに甘かったし、トリコもまた大人しくココの言う通りにしていた。


手当が終わると夕食を取ることにした。
トリコはベッドに起き上がり、「食べさせてくれ」とねだった。
自分で食べられるだろう、と言いながらも、ココは結局トリコの口へ肉やらパンやら運んでやる。
あーん、と大きな口を開け、トリコは嬉しそうだ。

そうやってトリコを甘やかしながらも、ココの口からは文句が出る。ネオトマトを口へ運びながら言った言葉が、冒頭のものだ。

「…いつもは避けるなって言う癖に…」
トリコがぶーと膨れてみせる。
「そ、そうだけど!
でも、来月からまた狩りに行くのに、骨折してどうするんだよ!?
なんで無防備にやられちゃったんだよ!?」
…攻撃しておいて、この言い方はどうだ。
しかし、言葉とは裏腹にココの目尻には涙が溜まっていた。
本当は避けてほしかった、怪我などさせたくなかった、というココの気持ちがありありと伝わってくる。

「…腹に力を込めさえすれば、せめて骨折はしなかったかもしれないのに…!」
ココの言葉に、トリコはポリポリと頭を掻いた。
「いや、ココの動きが予想外に速くて、反応遅れちまった。
ココ、動き速くなったなー!
トレーニング、頑張ってんのな!」
「い、いや…。トレーニングというか、さっきのは、反射みたいなもので…。」

…反射で骨折させられては、たまったものではない。
しかし、トリコが引っ掛かったのは別の部分らしい。
「反射??
…ココ、反射で攻撃出すほど、俺に触られるの嫌なのか?」

ココが、うっと言葉に詰まる。
トリコは、真剣な様子でココを見つめている。まっすぐに。
その瞳には悲しげな色が混じっていた。
何も言えないココに、トリコはさらに表情を曇らせた。

「…ココ、悪かったな。
俺、ココが好きだから、ついココに触りたくなっちまう。
…でも、ココがそんなに嫌なんだったら、もう触んないから。」
下を向いて言葉を紡ぐトリコに、ココは口を開いた。
何か言おうとして、また口を閉じる。
「…そう言えば、ココはいつも嫌だって言ってたもんな。」
トリコが悲しげに呟き、ちらりとココを見た。

「……今までごめんな、ココ……」


俯いていたココが頭をあげた。
「…ちがう」
その小さな呟きが聞き取れなかったトリコは「え?」と聞き返した。

「…いや、じゃない…よ」
真っ赤になって俯くココを、トリコはまじまじと見つめた。
「だって、ココ…」
「いやなんじゃない。
だって、ボクだって、お前のことが…す、好きなんだ。
…嫌なわけないだろう?」
「だけど…」
「嫌じゃないけど…。
ただ、恥ずかしくて…。
どう反応していいかわかんなくて…。」
それであんな風にしてしまうのだ、とココは震える声で言った。

ごくりとトリコが唾を飲む音が響いた。トリコの唇が嬉しさに緩んでいく。

「…ココ!」
ぐい、とココを引き寄せて何度もキスして頬擦りする。
ココも、真っ赤になりながらも今はされるままになっていた。
「かわいい、ココ!大好きだ!」
トリコが囁くと、ココも、トリコに身体を預け、ギプスに固められたその胴に両腕を回す。

「ボクも、トリコが好きだ。
こうやって、抱き合ったりキスしたりするのも嬉しい。」
真っ赤な顔でトリコを見つめてココが言う。
「ごめんな、トリコ。
アバラ折っちゃって。
治るまで、ちゃんと面倒見るから、不自由があったらなんでも言っ…」
言いかけて、ココが止まる。
身体の下に、何か硬いものを感じたのだ。
目線だけ、下にずらしたココは、そっと布団をめくった。

そこには、立ち上がったトリコの雄。

「ココがあんまり可愛いから、反応しちまった。」
悪びれず、トリコが笑った。

「アバラ、治るまで面倒見てくれるんだよな?
俺、動けないから、ココ、頼む。」

ココが赤くなったり青くなったりしながらトリコの顔を見て、視線を下にずらし、また顔を見た。

「ん?」
トリコがにっこりとココの頬を包む。
親指でココの唇に触れる。
「ここでしてくれてもいいし…。
なんなら、こっち座る?」

トリコが言った途端、頭に衝撃が走る。
「…いってぇ…」
目の前には、拳を握り、ぶるぶる震えて立つココがいた。
「調子に乗るな!」

真っ赤な顔でそう叫んだココは、足音も荒く部屋を出て行った。


バタンと大きな音をたてた扉を見遣り、トリコが痛む頭を撫でた。
「まったく、照れ屋なんだから…」

そんなとこがまた可愛いんだけど、と一人ごちる。

ニヤリと笑って「あと一押し、かな」と呟く表情は、ハンターのそれだった。

アバラの1、2本、安いもんだぜ。

ココが聞けば絶叫しそうな独り言を聞く者はいなかった。




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