【ブック】表

□こんな、日常…Case3
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「あのっ、すみません!」





1人の男の声が雑踏の中紛れ込む。





名前が呼ばれた訳ではないのだが、
その声が自分に向けられている
ような気がしてリナリーは振り返った。






そこには短髪で
自分と同じくらいの
身長をした青年がいた。


金色の髪は降り注ぐ日光に照らされ
眩い美しさを放っている。


世の女の子が羨む
くっきり二重の奥には
コバルトブルーの瞳。






声に振り返ったリナリーの判断は
正しかったらしく、
青年はしっかりと
リナリーを見つめていた。




「何か?」




今日は任務のための外出ではない。

非番で気晴らしに
教団から出て街を歩いていたのだ。

だがローズクロスを掲げた団服は
例のごとく着ていて、
そのせいで近付く者みな
敵だと端から疑っている。



上辺だけの笑みは見せるものの、
万全の態勢を整えつつあった。




しかし次に青年の口から出てきたのは、
戦闘態勢への切り替え準備をしかける
リナリーさえも力を
抜かせるような言葉だった。







「僕…あなたの事が
 前から気になってまして…。
 その、よければ仲良くなって
 もらえませんか!?」




頭の上を飛んでいたゴーレムが
ハタッと羽ばたきで
ずっこけを表したようだった。




モジモジと話す青年は
頬を若干赤らめているのは間違いない。



それは世に言う 告白 だ。



「え、ぁ…っと…」



幼い頃から教団で過ごすリナリーは
学校で知り合う同い年の
男の子もいなければ、
男の子と特別に心を通わせたこともない。

おまけに教団には
リナリーから男を遠ざける
コムイと言う兄兼、番犬もいるため
下手にリナリーに手を出し
命を無駄にしようとする輩はいない。



どう対応すれば良いのか分からない
リナリーは自らの頬を染める。


目の前の初めて見る青年は
自分を気になっている
存在だと言っている。


前からと言うことは
青年は自分を見るのは
初めてではないのだろう。


必死に次に返す言葉を考える
リナリーだが、答えは疾うに
決まっている。

ようは、どうすれば傷つけずに
言いたいことを伝えれるかだ。


「ごめんなさい…私、
 今は友達と遊んだりとか
 出来ないの…家の都合で。
 だから、ごめんなさい!!」


2度謝って頭を下げた。


青年は緊張で力の入った肩を落とす。


「そんな、謝らないで下さい。
 名前も知らない方に
 唐突なことを言ってしまった
 僕が悪いです」

僕こそごめんなさい。
と付け加えて一通り会話が終わったので
リナリーは踵を返そうとした瞬間。

「あっ、待って!」


慌てながら再び呼び止められ、
青年を見た。


「名前…教えてくれませんか?
 僕の名前は…」
「キャアアア!人殺し!!」

「!?」


突然の悲鳴に
人より早く反応したリナリーは
誰よりも先に足を動かしていた。

青年に、また後で。と言い残し。

「あ…」



髪を靡かせ
悲鳴の方へ走り出したリナリーは、
騒ぎに歩を止める人が溢れる通りから
建物の屋根へジャンプで移り
そのまま姿を消した。

人間の跳躍では不可能なそれを
難なくやってみせた瞬間を見た
通りすがりの人々は口を開けていた。

もちろん青年もその中の一人である。




悲鳴のあった場所は
皮肉にも今も鳴り響く銃声で
すぐに特定できた。


「アレンくんっ?!」

どうやら交戦中だったらしく、
白髪のよく見知っている少年が
しきりに走り回っている。

「リナリー!」

突然現れたリナリーに
つい気を奪われアクマに後を取られるが、
ハッとした時にはリナリーの
ダークブーツがアクマにめり込み、
壁へ突き飛ばした。


「どうやらLv.1が
 暴れてるみたいです」

「そうみたいね…」


お互い背中を預け、
数十体と迫るアクマを迎え撃つ。




「きゃああ!」

―バン!

数体のアクマと交戦中、
通りすがりの住人の悲鳴と
銃声が同時に鳴り、消えた。


ハッとして後ろを振り返れば
いつも通り素知らぬ顔をしているアクマと、
地べたに這いつくばったまま
微動だにしない女性。

女性は次第に砂へと化し、
遺された衣服がパサリと風に揺らめいた。


「くっ…!」

助けられなかったことに
自責の念を抱きながら地面を蹴り、
そのアクマへ猛突進する。

空中で身を翻しダークブーツが
アクマへ狙いを定めた。

その速度およそ秒速5メートル。

目にも止まらぬ速さの攻撃を、
あろうことかアクマは受け止めた。

超高速で動くリナリーを
止めたことによって
風圧がドンッと鳴り空気を震動させる。

「っ…!?」

足の筋がビキビキと響き、
限界を達する前に膝を屈めてバネにし、
跳ね返りでアクマから離れた。

『育ててくれてアリガトウ』

「なっ!!」

言葉を失うのも当然。

アクマはLv.2へと変貌を遂げた。


「リナリー、応戦します!」

Lv.1を倒したアレンが駆け付け、
一気に片を付けに入る。



アクマがリナリーに
突っ込んできたその瞬間。




「あっ!危ないっ!!」




そう言いながら
庇うようにしてリナリーの前に
立ち塞がった人陰に
アレンとリナリーは冷や汗をかいた。


咄嗟にその人陰を抱き抱え、
躱すように上空へジャンプする。

「誰?急に出たら
 危ないじゃ…な、い…」

リナリーは目の前にいる人を
認識した瞬間言葉に詰まった。


誰であろう、
先程告白をしてきた青年だったから。


「あなたが危険な目に遭うところを
 黙って見てられなくて…」


地上何メートルかの景色に
青ざめながらリナリーに笑いかける。

「優しいのね…だけど、
 生身のあなたが闘う方がとても危険。
 私なら絶対に負けないから見てて」

アレンがアクマを止めている間に
リナリーはフワッと地面に降り立ち、
建物の影にいるよう青年に言った。





































「さっきは嘘ついてごめんなさい。
 私は今もいた殺人兵器と
 闘うのが使命なの、だから…」


見事アクマを全壊させたリナリーは
青年と向き合って本当のことを言った。

語尾を濁し目を泳がせると
青年は淀んだ空気を払うように
大きな声で笑う。

「一目惚れで声を
 掛けてしまった僕もどうかしてるね!
 全然気にしなくて良いよ!」


青年も一つ嘘をついて手を差し出した。


「僕の名前はクロウ。
 実は駆け出しの科学者で、
 さっきのアクマとやらの実体も、
 君を含めたエクソシスト
 とやらも気になるな」

「リナリー・リーです。
 アクマは本当に危険なので
 気をつけて下さい」



二人は硬い握手を交わし、
違う方向へ歩き出した。





再び出逢う、予感を残しながら。





*end*

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