【ブック】表

□こんな、日常…Case2
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「ラビー!
 どこ行ってんですかぁ!」


気を抜いたら一瞬で
迷子になりそうな山奥で
必死に叫ぶアレンの声が聞こえた。


ボーっと歩いていた俺は、
一緒に任務に来ていた
アレンとリナリーといつの間にか
違う方向へ行ってしまったようだ。


「わりぃわりぃ」


「一番大人な人が
 道に迷わないでくださいよ」

「へーへー」


アレンの皮肉にも慣れたもんだ。

俺はブックマンとして
あらゆる戦争を内部から観察する者。


この黒の教団に身を置いて、
1年も経過していた。



常に傍観者であれ。

いつもあの口ウルサイじじぃに
言われている言葉。


もちろん今までもそうしてきたし、
これからもそうするつもりだ。





しかし、今回の任務地は…。






「こんな奥地にこんな小さな村が
 あったなんて初めて知ったわ」




俺は無心であり続けた。

       ログ
ここは、前の記録地と近い…。






「…ビ、…ラビ、ラビ!」


「!?」


今度はリナリーの声に
ハッとさせられた。


「どうしたの?
 なんだか変よ…」


心配そうに駆け寄るリナリーに
俺は後退ってしまった。


その瞬間リナリーの顔が固まる。

俺は無意識の対応に、
しまった。と言わんばかりに目を逸らす。


「あ…、悪い。
 ちょっと俺、頭冷やしてくるわ」




不安そうに俺を
見つめる二人に背を向けた。















俺はブックマンとして
傍観者であり続けたわけだが、
本当のところよく分からなくなっていた。


教団で過ごすにつれて深まる仲間意識。

じじぃの言う言葉が
ツラく聞こえてきたのがその証拠。






「…ディック…さん」




「?……」




後ろから聞こえた
懐かしいような名前。


つい、振り向きかけてしまった自分に
ブレーキかけた。





ディックって…
俺の前の名前…。





今の俺の名前は『ラビ』。


完全に振り返ることなく
また歩みを始めた。

ここにじじぃいたらボコられてた。





「待って、ディックさん!
 ディックさんでしょ!?」



後ろから腰をガッシリ捕まえられた。


勘弁してくれよ…。




「俺はそんな名前じゃねー…」


仕方なく後ろを向くと、
そこにいたのは年頃の女の子。


俺は目を見開いた。





「お前…あん時の…?」

「覚えてくれてましたか?」



その子は、昔記録するために
潜り込んだ土地での
戦争の被害に巻き込まれそうだった子。


危機一髪のところを俺が救い出した。


考えるよりも先に体が動いてしまったんだ。


後でじじぃに蹴られたが。




「お前、おっきくなったなぁ」


あの時はまだ幼女。

すっかり身長も伸び、
まだ幼さは残っているが、
確実に大人の女性に近づいていた。


「あの時、ディックさんが
 助けてくれていなかったら
 今の私はいません」


ニコッと笑った顔は
少し照れているように見えた。


「あぁ、そんな昔のこと良いさ」

「そんなことないです!
 私ずっとディックさんに
 ちゃんとしたお礼がしたくて…。
 あの時は本当にありがとうございます」




頭を撫でると、
そんな子供じゃないです!
って喜びながら怒られた。

年頃の女の子は難しいな。



その子と別れて、
なんだか胸にポッカリと
穴が出来たようだった。


だけど、虚しさとか、
物足りなさとかの穴ではない。






ブックマンは感傷に浸ってはならない。

登場人物とは常に一線を引け。








だけどたまに。



こんな事があるのも楽しいかもしれない。








なんて思ったことは、
パンダには絶対内緒。









*end*
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