【ブック】表

□こんな、日常…Case1
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ここは科学班研究室。



ここで働く科学班のメンバーは
皆休む暇もなくイソイソと作業をしている。




「リーバーはんちょぉー。
 この資料まだ未処理なんですけどー」


「あー?なんの資料だ?」


「はんちょー!
 ジョニーがコーヒー零して
 資料汚しやがったよぉ!」

「ごめんー…」


「すぐに修復しろ!」


「リーバーくぅん…
 コーヒーちょうだーい」


「甘えた声出しても可愛くないです。
 俺も今手が放せないんっスよ!」


「リーバー班長…」

「はんちょー…」

「リーバーくーん」








一人一人の呼び声に
ちゃんと助け舟を出す
科学班の頼れる班長、リーバー。

特に室長であるコムイには振り回され、
毎日苦労させられている。

この日も例外ではなかった。




「あれー?リーバーくん、
 今度アレン君達に行ってもらう
 任務の書類どこいったっけ?」



「ハァ…
 室長の座っているイスに
 敷いてるのはなんなんスか…」



ん?と腰を浮かせて見てみれば
それは探していた資料そのもの。



「さっすがリーバーくん☆」


茶目っ気タップリでウインクに
ペロッと舌を出し、
親指を立たせてリーバーに向けた。





全くもって可愛くない。







「まったく…しっかりして下さいよ。
 俺、コーヒー淹れてきます。
 室長もいりますか?」


「うん、おねがい♪」



司令室を後にすると研究室に戻り、
すっかり空っぽになっている
コーヒーメーカーを手に取った。


研究室内に設けられた給湯室で
慣れた手付きで準備をし出した。









ハァ…。


リーバーの無意識の溜め息が漏れた。


最近充分に寝てない脳は
常に化学式や処理しても減らない
仕事のことを考えている。



「本当に転職考えようかなー…」



ずっと頭の片隅にあったことが
つい口に出た。


ボーっとコーヒーメーカーを
見つめるリーバー。



何を思ったのか、
作りかけのコーヒーを置き去りに
誰に告げるでもなく
研究室を出て行った。














































教団を抜け出し街に来た。


特に買い出しでもないし、
出掛ける予定もなかった。





ただ、なんとなく…。






街には仕事中のスーツマンもいれば
家族で出掛けている人もいる。




そんな普通の日常を過ごす人達。


自分は毎日寝る間も惜しんで
研究、資料まとめ。


仲間も科学も好きだし、
今までこの生活に
全然違和感を感じなかった。



俺がもし転職をしたら。



可愛い奥さんと子どもと
一緒に暮らして、
守って行きたいもののために働く。



思いつく理想は贅沢なものだった。




大通りを歩いていると、
あまり天気の良くなかった空から
ポツリポツリと雨粒が降り始める。




「わ、今日は雨か」




周りの人はちゃんと
天気予報を見ていたのだろう。

事前に用意していた傘を
各々のタイミングで差し始め、
大通りはあっという間に
色とりどりの傘の花が咲いた。




リーバーは近くにあった
喫茶店へ急いで入った。






教団からそのままで出てきた
リーバーの白衣のポケットの中には
運も良くコーヒー一杯飲めるほどの
お金が入っていた。




いつものブルーマウンテンを頼み、
一口すする。




フと、リナリーの淹れてくれる
コーヒーや自分たちで淹れる
コーヒーの味を思い出し、比べる。



「あんま…うまくないな…」



特にコーヒーが好きではないが
眠気覚ましに飲むこともあり、
今では飲むのがクセのように
なっていただけなのだが、
教団で飲むコーヒーの方が
断然美味しいということは
自分でもわかった。




もしかしたら教団では
俺がいない間にハプニングが
起こっているかもしれない。


なによりコムイ室長。

仕事サボっているのではないのか。

その前に、
俺の淹れるコーヒーを
待っているのではないのか。


普段のアホらしい発明品とか、
変な薬とか、
頼りがいがないように見えるが、
いざと言うときは頼れるし、
信頼も尊敬もしている存在。





何も考えず教団を出てきたが、
今考えているのはみんなのこと。






リーバーは考えているうちに
コーヒーを飲み干すことなく立ち上がり、
喫茶店を出た。


通り雨だったらしい雨は
すでにやみ、雲の切れ間から
光が零れている。






「…帰るかぁ…」





迷うことなく歩みは教団へ向かった。






































「リーバーくん!?」

「リーバー班長!!」




研究室に戻るなり、
科学班のみんながリーバーに注目した。




「班長どこ行ってたんすかぁ!」


「教団内隅々さがしてもいないから
 みんな心配してたんですよ!」




姿を眩ましていた時間、ザッと1時間。



それだけなのに、
こんなにも心配されていたことに驚いた。



「おかえり」



向こうからは二人分の
コーヒーカップを持って
ニコッと笑うコムイ室長。


カップを1つ差し出され、
受け取ると中には
湯気の立つコーヒーが入っていた。



「ありがとうございます…」


ズズッとすすると、
さっき喫茶店で飲んだものとは
全く違う味。


うん、やっぱり美味い…。


もう一度、そう確信して
コムイを再び見る。



「今からアレン君達が司令室に来る。
 手伝ってくれるかい?」


「はい」


リーバーを通り過ぎたコムイの後ろを
着いて行きながら後ろを見返すと、
みんなはすでに元の持ち場に戻っていた。





まさかこの俺が
ハプニングの根源になるとはな…。


自嘲気味にフッと笑って
コムイと共に司令室へと向かった。














*end*
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