コルダ
□思えば胸が苦しいの
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たった3つしか違わないのにこの差は大きい
車の中で心地よい揺れに気持ちよくなって眠りそうになる自分の頬をぴしゃりと叩いた。
うとうとしてたのがばれてないかこっそりと運転する王崎先輩を見ればまっすぐに前を向いたままで気付いてないよう。
・・・気づいてないふりしてる方があってるんだろうけれど。
今日は1日王崎先輩がボランティアでしているヴァイオリン教室。
いつも練習に付き合ってもらってるから今日はそのお礼もかねて手伝いをしたんだけど。
帰り道、車に乗せてもらったのはうれしくて、けど助手席なんて普段乗らないからなんか緊張してたはず・・・なんだけど。
それにしてもいつも忙しい王崎先輩が一体いつ免許なんて取ったんだろう。
「車があるともっともっといろんな人に出会えるからね。」
なんて言ってたっけ。
この人はどこまでも周りのことを考えるんだろうなと思う。
胸に感じたもやもやに眉間に皴が寄る。
何考えてるんだろう、私。
「車酔いしてない?」
「あ、大丈夫です。」
「そう?ならいいんだけど。」
にっこりと笑ってまた前を向く。
運転してる先輩はいつもよりも大人っぽく見えて年上なんだって思い知らされる。
遠い人なんだって・・・。
「王崎先輩は・・・。」
「え?」
「あ、滝!!」
言いかけた言葉を隠してたまたま見つけた滝を指差す。
なんて適当な言い訳なんだろう。
でもそんな私の言葉に微笑んで車を止めてくれた。
「こんな場所あったんですね。」
そっと川に手入れれば冷たくて気持ちいい。
パシャパシャと水を叩いて遊んでいたら先輩が笑った。
「危ないよ。」
「大丈夫ですよ。」
私を見つめる先輩の優しすぎる瞳はさっきの子どもと何も変わらない。
当たり前、か。
先生と生徒だもんね。
だけど、こんな関係いつまでも続くわけない。
彼だってきっとどこか遠くに行くんだろう。
だけど・・・、ううんだからこそ
「王崎先輩!!」
「え?」
すっかり油断していた王崎先輩に川の水をかけた。
驚いた先輩を見ておかしくていたずらっ子のようににんまりと笑って見せた。
どんな風に思われたっていい。
いい子だなんて思われなくていい。
だから
ほんの少しだけでいいから
他の誰でもない私だけを見てください
思えば胸が苦しいの
(あなたに恋している痛み)