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□ハンカチーフとヴァイオリン09
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「いや〜素晴らC〜!キミ、やっぱり上手なんだね〜」

「ありがとう…ふふ、何だか変な感じ」

手放しに褒めてくれる芥川君の様子が、ちょっとくすぐったくて、思わず笑みが零れてしまう。

「え?どうして?」

「だって、こんなに褒めて貰ったの、久しぶりだから」

レッスンの時は褒められたとしても、飴と鞭の飴に過ぎない。

初めて出たコンクールも散々だったし

こんなに褒めて貰えたのは

ヴァイオリンを初めて、両親の前で覚えたての一曲を初披露したとき以来だろう。

まあ、あまり人前で弾くこともなかったから、当然かもしれない。

「喜んで貰えて、すごく嬉しいの…ありがとう、芥川君」

「俺の方こそありがとね〜。音楽でこんなにワクワクしたの、初めてだよ!」

二人で笑い合う。

穏やかで、けれど明るい時間。

初めて話すはずなのに、とてもこの時間がいとおしく思えた。

「あ、そうそう」

おもむろに芥川君が口を開いた。

「どうしたの?芥川君」

「それ。俺のことはジローでいいよ。なーんかそう呼んでもらった方が、嬉しい気がする〜」

突然の提案に、すぐに応える事ができなくて

しばらく私がほうけていると、芥川君が不思議そうに覗き込んできた?

「どうしたの〜?なんか俺、嫌な事言っちゃったかな〜?」

「そ、そんな事ない!」

慌てて嫌な事なんてないと、両手と首を精一杯横に振って伝えると、芥川君が笑った。

「キミ面白いね〜」

「お、面白い…?」

「うん。見てて飽きないよ〜」

褒められているのか、からかわれているのか、よく分からないけど…

悪意はなさそうだから、褒められている…のかな?

「やっぱキミには〜、ジローって呼んでもらった方が嬉しい気がする〜。一回呼んでみて?」

「え?…え!?」

戸惑う私をよそに、芥川君は「早く早く〜」と急かしている。

本人が言うんだから、いいのかな…?

そう思って、試しに一度呼んでみる。

「……ジロー…君?」

「ん〜、最後の"?"はいらない〜…もう一回!」

「…ジロー君」

「もう一回!」

「ジロー君」

はっきりと名前を呼ぶと、ニコニコしながら私の両手を掴んだ。

「うん!やっぱりキミの声で呼んでもらえると、うれCし気持ちEから、これからはジローって呼んでね!」

「………よく分からないけど…芥が…あ、ジロー君がそう言うなら…」

男の子を名前で呼ぶなんて、実はそんなに経験がないからちょっとまだ抵抗があるけれど…

ジロー君が喜んでくれるなら、いいかもしれない。

彼が笑うと、不思議と私も明るい気分になる。

「またヴァイオリン聞かせてくれる?」

「もちろん!」


ぽかぽかした気持ちは

きっと、春の陽気のせいだけじゃないと思った。






>>10

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