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□ハンカチーフとヴァイオリン10
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実はジロー君と私は同じクラス。

入学式もHRにもいなかったのは屋上で昼寝していたからだと、あの時分かった。



それから私がヴァイオリンを弾いていると、いつの間にかジロー君が隣にいて

気持ち良さそうに聞いているのが当たり前になった。

ゆっくりした曲を弾いていると、たまに…いや、よく寝てしまっているけれど

そんな所もジロー君らしいと思う。


一年のときは、なかなか跡部君に会いに行けないことがもどかしくて、少し悲しくて

暗い気分で弾くことも多かったのに

最近はジロー君のおかげで、明るい気分で奏でられる。

隣で聞いてくれていると、ヴァイオリンが優しく歌った。



ただ一つ気になる事がある。

基本的に昼寝…というか常に熟睡しているから

放課後になってもなかなか起きない。

でも、ヴァイオリンを弾いているといつの間にか隣にいる。

…放課後はテニス部の練習があるよね?

今更気付いた私もいけないんだけど。

聞いてみれば「あ」と、大きな目をさらに大きくして、頭をポリポリ掻いていた。

「いっけね〜跡部に怒られちゃうよ〜。そういえば最近、樺地が起こしに来ないな〜って思ってた」

「思ってたって…」

そんなことでいいのかなぁ?

「あ、そーだ。キミ、放課後になったら起こしてよ。キミの声で起こされると、気持ち良く起きられるんだ」

いい事を思い付いたと、ジロー君が手をポンポン叩いている。

確かに今まで何度か起こしたことはあるけれど…

「別にそれくらいいいけど…樺地君に申し訳ないなぁ…」

わざわざ一年の教室から、ジロー君のために来ていたから

彼の労力を無駄にしてしまう気がする。

「たまにさ、俺が樺地より先にテニスコートにいると、すっごい驚いた顔するんだ」

「…樺地君の驚いた顔……気になる」

「でしょでしょ〜?だからさ、お願い」


うぅぅぅ…ごめんね、樺地君。

失礼だとは思うんだけど…驚いた顔がみてみたいという誘惑に

負けました…。

「…わかった」





*********************



私の日課が増えました。

屋上へ行く前に、ジロー君を起こして部活に行くように伝える事。

起きてはくれるんだけど、なんとな〜く寝ぼけている時もあるから

そういう時は樺地君が担いで連れていってくれる。

その様子がなんだか可笑しくて

放課後の楽しみの一つになっているのは、秘密。





>>11




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