宝物
□Star Light Festival
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柳宿は腰に付けた皮袋から、手のひらくらいの小舟と蝋燭を出した。
「これがそうよ。川へ流して、蝋燭の火が消えたら、あの子は今日この時だけ、一緒に地上で過ごせるわ。朝になったら、それが合図のように天へ還って行くの」
美朱を火の所まで連れて行き、柳宿はその火で蝋燭に火を点ける。
そして、舟の真ん中にある突起に蝋燭を挿した。
なるほど、ここに灯された火は、各々が持ち寄った蝋燭に火を灯すためにあるのだ。
康琳、と呟き、柳宿は舟に向かって手を合わせる。
美朱もそれに習い、一緒に「南無釈迦無二仏(ナムシャカムニブツ)」と唱えた。
それを聞いた柳宿は、不思議な呪文ねと笑った。
「ありがとう、妹に手を合わせてくれて」
「ううん、柳宿の妹さんだもの。―――そっか、これは、私の世界のお盆のような行事なんだね」
「お盆…? 食事を乗せるお盆のこと?」
「ううん、こっちの風習のこと。八月の半ばに亡くなった人をお墓へお迎えに行って、お家で一緒に過ごして、そして数日後にお墓へ送りに行くの。これと似たような感じだよ」
「そうなの。もしも私がこの空に輝く星になったら、美朱は同じように、私を迎えに来てくれるのかしら。―――迎えに、来てもらいたいなぁ」
「柳…宿…」
美朱は小舟の灯りを見つめながら、柳宿の切なそうな横顔を見た。
この灯りが、彼女の中の少ない勇気に火を燈したような気がした。
美朱はそっと立ち、柳宿の頬をそっと両手で挟みこむ。
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